進化を忘れた生物界のチャンピオン
生物の性質を子孫に継承するのは「遺伝子」です。もう少し補足すると、二重らせん構造を持つDNA内の配列とその制御が遺伝として伝わります。
DNAのサイズが大きい方が高等生物と思われがちですが、さにあらずです。
我々人類のゲノムを解読した「ヒトゲノム計画」で、意外な結果となりました。過去投稿を引用しておきます。
ということで、人類はマウスと同じぐらいのサイズです。
これが意味するのは、ゲノムサイズが大きいことがより進化した生物、という方程式は成り立たたない、ということです。もう少し言えば、その配列を制御する仕組みも重要で、エピジェネティックスというテーマで研究が活発に進められています。関心がある方はこちらを。
とはいえ、一番大きなゲノムがどんな生物なのか気になりますね。
実は最近、動物のなかで史上最大のゲノムサイズが発見されました。こちらと下記記事を元に紹介します。
発見されたのは、南米種の肺魚です。人類の30倍(910億!)ものゲノムサイズを持っていることが分かりました。
肺魚はシーラカンスのように「活きている化石」とも呼ばれる生き物です。
奇妙なのが、他の地域で見つかった肺魚と比較しても数倍大きなサイズです。DNA解析の結果、1000万年単位で(この南米種だけ)人間のゲノムサイズ分ほど肥大化が続いてきたようです。
一体この肺魚に何が起こったのか?
DNAの中には、転移因子(またはトランスポゾン)と呼ばれる自己複製を行う部位が存在します。
人間の場合約4割に相当しますが、それがこの肺魚では9割を占めていることが分かりました。この複製機能にストップをかける遺伝子が欠損していることがどうも原因のようです。
「転移」と名付けられているように、この因子はDNA内を移動します。するとそれだけ多様な遺伝子を獲得する機会が増え、環境変化でも生き残れるリスクヘッジになるわけです。いわゆる「進化」ですね。
つまり、今回見つかった肺魚は、進化が止まった生物とも言えます。(進化=よいこと、ではありませんが)
ただ、なぜそのストップをかける遺伝子が欠損したのかは謎で、また新しい仮説が誕生するかもしれません。
最後に、今回の肺魚は動物のゲノムサイズでは最大ですが、生物全体で見るとシダ植物がチャンピオンです。なんとさらに倍近い1600億!
こちらの記事で言及していますが、いまだ有効な仮説も出ておらず、極上のゲノムミステリー状態です。
ヒトゲノム計画も、その結果があまりにも意外だったため、エピジェネティックスという新しい分野が拓けました。
もしかしたら、これらの生物を探索することで、新しいゲノム研究が誕生するかもしれません。