気象学史5:AI革命と生物センサーの可能性
科学技術の視点で見た気象学の歴史。今回が最終回です。
前回は、気象衛星の登場とデータ解析(サブグリッド)で天気予報の精度が向上した話をしました。
今回は、今の最新技術を通じた予報についてです。
まず、今回のシリーズのきっかけとなったのがAIによる革命的な進化です。復習になりますが、1950年代から開始された科学的な手法は、流体力学モデルをベースに、コンピュータで近似計算するというアプローチです。
そのモデルを捨て去り、過去データから学習してパターンを見出すというアプローチで、テックジャイアントがしのぎを削っています。
まさに量が質を凌駕する今のAI時代を象徴する出来事です。
なぜテックジャイアントが一見関係のない気象予測に注力しているのかは、自社PRの意図もありますが、それが商業的な価値にもつながるからです。
今まで紹介した歴史は、括っていえば、政府またはその関連筋(アカデミズム含む)による取り組みでした。
ところが21世紀になって「民」の動きが進んでおり、その原動力が需要予測を中心としたデータビジネスです。
例えば、海外ではPlanalytics、国内ではウェザーニュースが有名です。前者は企業向けソフトウェア企業群と連携しており、例えば輸送中の情報とその付近のピンポイント予報を組み合わせることで、貨物が目的地に到着する精緻な予測、そしてそれによる需要予測をはじき出します。
以前から近いことを行ってきたのがウォルマートで、人工衛星(自社専用!)からサプライチェーンの見える化を実現し、他にも自社店舗駐車場の空き状況から売り上げを予測する仕組みも構築しています。
気象を予測する新しい取り組みとして個人的に注目しているのが、「生物センサー」です。
以前に、「動物のインターネット」の話題を取り上げました。
あくまでこれは、多様性保護の目的ですが、実は生物には気象に敏感なものもあります。2つほど記事を取り上げます。
1つはアリが巣をつくる行動が気圧などの気象データと相関があるというものです。
もう1つは、渡り鳥が台風を事前に察知してそのルートを変えている、という研究です。
倫理的な議論は必要ですが、ビッグデータを非生物から生物にまで広げることで、より精緻化する可能性を秘めています。
もしかしたら、我々人間にも隠れた気象予報能力が存在するかもしれません。逆に、気象予測から人間の内面への働きかけもビジネスとして成立するかもしれません。シンプルな例でいえば、雨の日にあったBGMを流して、とかスマートスピーカで多用していますが、これをマシン自体が自律的に判断して体を整えてくれるイメージです。
これから科学技術が加速化するなかで、気象学というマクロな分野が我々の日常により密接に関わってくることは間違いありません。
また新しい取り組みを見つけたら紹介したいと思います。
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