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無限を測る:リチャードソンの発見が導いたフラクタル革命

前回、脳の発達がフラクタル構造だったという話をしました。

興味が出たのでフラクタル構造の歴史について調べてみました。

まず、有名なのはブノワ・マンデルブロ(1924-2010)という数学者です。フラクタル幾何学の創始者として知られています。

ただ、彼に影響を与えた隠れたパイオニアがいました。

ルイス・フライ・リチャードソン(Lewis Fry Richardson)(1881 - 1953)で、数学者であり気象学者でもありました。

実は以前に、気象学史でも紹介しました。気象学に物理とコンピュータを導入しようとした立役者です。

リチャードソンの研究: 海岸線のパラドックス

リチャードソンは、戦争の原因として、各国が主張する国境の長さの食い違いに着目しました。例えば下記のような結果です。

スペインとポルトガルの国境線:前者は987km、後者は1,214km
オランダとベルギーの国境線:前者は380km、後者は449km

これが彼が関心をもった発端でした。

そして1920年代に「海岸線の長さは測定の単位に依存する」ということを発見しました。つまり、海岸線を測るとき、使用する測定単位が小さければ小さいほど、長さは無限に近づいていくのです。

例えば、海岸線を100km単位で測定した場合と、1km単位で測定した場合では、細かい湾曲や突起がより詳細にカバーされるため、測定値がどんどん長くなることがわかります。リチャードソンはこの現象が、単純な直線的な幾何学では説明できないことを指摘しました。

マンデルブロとのつながり

リチャードソンの研究は当時あまり注目されていませんでしたが、ブノワ・マンデルブロに影響を与えました。
マンデルブロはリチャードソンの「海岸線の長さ」問題を掘り下げ、複雑で不規則な形状の数学的性質を解析し、「フラクタル幾何学」という新しい視点を導入しました。マンデルブロは、リチャードソンの研究から「自己相似性」の概念を抽出し、これを用いてフラクタル構造を定義しました。マンデルブロ集合や他のフラクタル図形の研究は、この自己相似性が元となっています。


フラクタル的思考の進化

リチャードソンの仕事がフラクタル幾何学において革新的だったのは、彼が自然界の不規則な構造を測定・記述しようとした点です。これにより、自然界の複雑さを捉える数学的ツールとしてフラクタルの概念が確立される一助となりました。マンデルブロはその後、リチャードソンのアイデアをさらに発展させ、株式市場、自然の模様、山岳の地形などの現象を説明するためにフラクタルを応用しました。

つまり、リチャードソンの発見は、フラクタルの発展の初期の重要なステップであり、マンデルブロによって結実したフラクタル幾何学の基礎となるものといえます。これにより、複雑で予測不可能に見える自然現象が、実は数学的な構造によって理解できることが示されました。

戦争調査が発端となり、自然が持つ不思議なパターンを知り、それを数学として自然科学・人文科学に応用させたという、なかなか考えさせられる経緯ですね。

隠れたパイオニア、リチャードソンのお話でした。

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