人工重力施設で月や火星に住める可能性
「テラフォーミング」
人類が地球外に移住して生活する概念です。いつかはそんな日がくるのでしょうか?
そんなふわっとした空想を描く中、現実に近づけてくれそうな発表が国内で行われました。
ようは、
遠心力を使って疑似的に地球と同じ重力を発生させることで人類が住める施設をつくる、
という話です。
大手建設企業とのコラボなので、結構リアリティを感じます。
しかも、他にも魅力的な構想が語られているので、今回はこれを深堀して紹介してみたいと思います。
今回は下記3つの構想が発表されました。根っこにあるのは人類が地球と同じように快適に生活することを目的としています。
月・火星での生活基盤となる人工重力居住施設「ルナグラス®・マーズグラス®」
宇宙に縮小生態系を移転するためのコンセプト「コアバイオーム」
惑星間を移動する人工重力交通システム「ヘキサトラック」
SFに出てくるような表現で、この語感だけでもわくわくしますね。1から順番に解説していきたいと思います。
1.月・火星での生活基盤となる人工重力居住施設「ルナグラス®・マーズグラス®」
はじめに、実現したときのイメージ動画が公開されているので紹介。
こちらは「マーズ」、つまり火星バージョンですが、建築の構造としてはルナ、つまり月面でも同じです。
いかがでしょう? 不思議な光景だと思いませんか?
まず、ルナ・マーズ共通の語尾に「グラス」とありますが、さながら天体上に置かれたワイングラスの形状です。
そして上記動画では、ワイングラスの側面に対して垂直に立ってレジャーを楽しんでいます。
つまり、疑似重力は月・火星から見ると斜めに発生させているということです。
重力は天体の重力分布から生じるため、だいたいその中心向きに発生します。これは地球と同じですね。
ただ、火星では地球の約3分の2、月は6分の1しかありません。そのために、地球と同じ重力にするには人工的に足す必要があります。
その役割が「遠心力」です。例えば車でカーブを急速に曲がると横向きに引っ張られますよね?あれと同じ原理です。
つまり、グラスを人工的に回転(地面の垂直を回転軸)させて、側面の垂直方向に重力を合成しようという試みです。
下記のイメージ図がわかりやすいと思います。
これで上の動画イメージがより分かりやすくなると思います。
2.宇宙に縮小生態系を移転するためのコンセプト「コアバイオーム」
まず、「コアバイオーム」は、耳慣れない用語だと思います。
要は、火星・月にも普通に行き来できる未来を想定して、そこで必要な地球の生態系を現した概念です。
そのはじめの一歩として「移住」するための最低限の要素技術を「コアテクノロジー」と呼び、その1つが先ほどの人工重力施設にあたるというわけです。
ここからは想像ですが、人工重力施設が整ってくると、その次には衣と食の充実として、現地での食料や衣服の調達方法が検討されると思います。
もっと砕いていうと、現地の天然資源も活用しながら植物を育てたり工場をたてたりする計画です。これらはいずれもすでに各国・研究機関が進めており、ニュースでも目にします。
最低限の生活が確保されたら、長期間または集団での生活に必要な要素、具体的には医療体制の充実や法律の整備などが進められると思います。(念のため、ガイドラインレベルで宇宙法は一応国際・国内的にあります。)
今回の発表記事から、全体コンセプト図を引用しておきます。
3.惑星間を移動する人工重力交通システム「ヘキサトラック」
これもユニークな名称ですね。「ヘキサトラック」
まず、こちらもイメージ動画があるのでご紹介します。1のグラスも入ってますので、より新しい未来における全体感が伝わります。
なかなか壮大な世界ですね。個人的にはLauncherが「銀河鉄道999」そっくりでニヤっとしてしまいました。(知らない方はググってみてください)
もう1つ輸送の全体イメージも引用しておきます。
まずは、地上でスペースエクスプレスと名付けられた新幹線状の車両が有線レール部でジェットコースターの如くしっかりと加速させられて、重力圏を脱出します。
その加速技術は今回「レールガン技術」を想定しているようです。
ざっくりいうと相互作用を引き起こす電機と磁石の力(物理用語でローレンツ力)を活用していると思ってください。
レールガン技術は、滑走路の制約があり緊急発進が必要な空母のカタパルト(発射機器)の手段としてすでに使われています。(リニアモーターカーの実装方式としても検討または一部実用化されているかもしれません)
次にしっかりと加速度を付けて重力圏を脱出すると、また重力問題が浮上します。ここで出てくるのがInjector構造です。
スペースエクスプレスが向かう先には、6角形の内部格納カプセルが用意されており(ヘキサカプセル)、各カプセルに車両が格納されていきます。
このカプセルが回転しながら移動することで、1と同じ原理で地球環境に近い1Gを提供します。月向けと火星向けの2タイプが公開されています。
どれもこれもワクワクしますね。
まだ今回は研究を行うという発表なので、実現はだいぶ先になるかもしれません。
ただ、今回のコアバイオームというコンセプトは、今後の宇宙開発の先でテラフォーミングが真剣に検討されると確実に必要とされるものです。
いまからそういった未来を夢想しておくのも、決して早すぎることではないと思います。
今後もこの研究の進捗に目が離せそうにありません。
※タイトル画像は、今回の発表資料から引用しています。
https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/inline-files/220706-press-682b4f3f4eb849d5c49ee9e4dc899a59.pdf