齊藤元章氏のUBI-AGI構想が興味深い
以前に、コンピュータの性能がエクサスケールに突入した話をしました。
文中に、「それをタイトルとした書籍」とありますが、下記のことです。
技術解説書というよりは、エクサスケールに突入したあとに起こる「プレ・シンギュラリティ」の世界を記述しています。
この著者にあたる齊藤元章氏は、過去にひと騒動がありました。
現在は、改めて野心的なチャレンジを行っており、動画でその構想を語っています。
サムネイル画像のとおり、
UBI(Universal Basic Income)とAGI(Artificial General Intelligence)を同時に実現するコイン
を構想しています。
まず、斎藤氏が注目しているのがサム・アルトマンのワールドコインです。この基本的な仕組みは、過去に書いた関連記事を載せておきます。
上記記事で取り上げた虹彩による認証技術は「AIと人間を識別する」ために導入されています。そのうえでUBIを目指すユニークな暗号資産(上記動画では仮想通貨と呼称)です。
2023年7月から取引を開始し、World Appsというアプリでこの暗号資産(+投稿時点ではビットコインとイーサリウム)が売買出来ます。
下記によると、2024年3月時点で登録者400万名を超えているようです。
ただ、UBI、つまりあらゆる人間に無償配布されるこのワールドコイン、その発行ルールが具体的には明らかになっていないようです。
例えば、一番流通量の多い暗号資産ビットコインは、発行のためにPoW(Proof of Work)という、労力のかかる仕事をした人に報酬として発行するという方法を採用しました。
ところが、この労力は膨大なコンピュータ資源(マイニング)、つまり電力エネルギーを浪費します。過去の関連記事を添えておきます。
一方で、AGIの実現においても莫大なコンピュータ資源を必要とし、まさに今GPU合戦が繰り広げられています。詳細が気になる方は、過去の投稿記事をご覧ください。
これらの背景を踏まえて、齊藤氏のアイデアは、
「UBIを実現する暗号資産の発行に、AGIのトレーニングを同化させる」
というものです。
わかりにくければ、
「生成AIのトレーニング処理がPoWとなる」
という意味合いでも構いません。
結果として、AGIを目指すことが暗号資産の発行、つまりUBI-AGIを共通のコンピュータ資源で同時に目指せるというわけです。
なんとなくその意図は理解しました。少なくとも、コンピュータ資源の散財を防ぐことはできますね。
最近のサム・アルトマンのコメントでも
「コンピューティングは将来の通貨になるだろう(そして世界で最も貴重な商品になる)」
との言い回しがあります。(冒頭部)
この発言が齊藤氏と全く同一の構想を指しているのか、単なる一般論なのかはわかりませんが(動画見る限り後者かなと)、コンピュータ資源が幅広い社会課題に良くも悪くも影響を与えていることは間違いないです。
個人的な感想ですが、技術的な方法含めた構想は素晴らしいと感じました。
同時に、やはり一番のネックになるのが、技術ではなく人間側の下記2つの合意形成に帰着されるとも感じました。
Why→なぜUBIそしてAGIを目指す必要があるのか?
How→どのようにコイン発行プロセスのルール(アルゴリズム)をつくるのか?
話がとっちらかるのを恐れずに書くと、「通貨」というのは信仰の1種だと考えています。
そのなかで、「法定通貨」は国家が主に経済活動のために管理し、必要に応じて国際的に管理しあっている構図です。
現状の暗号資産は、個人的な印象ですが、残念ながらその法定通貨を獲得する手段にしかまだ見えません。
AGIについても同様で、まさに2023年のOpenAIのサム・アルトマン解任騒動がこの種の合意形成の難しさを露呈したと思います。
ということで、SF映画であれば、
「UBIを管理するのはAGI」
で綺麗なパズルの完成ですが、それこそコンピュータが我々人類の生殺与奪を握るマトリックスの世界に突入しそうで漠然とした不安を感じます。
素晴らしすぎるアイデアであるが故の苦言でした。改めて齊藤氏の構想力に敬意を表します。
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