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定説を覆す新しい細胞死が発見

我々の体は数十兆個の細胞から構成されますが、定期的に新しい細胞に生まれ変わっています。
器官によりますが、皮膚だと1か月単位で完全に入れ替わるそうです。
それを細胞単位でみると、要は細胞死がある程度プログラム化されているとも言えます。これ自身が狂うと問題です。

そんな細胞死にはいくつかの種類がありますが、新しいタイプの細胞死が発見されたという成果が理研より発表されました。

特に要約はいらないと思います。「細胞が死ぬ」という大きなライフイベントでもまだ新しい発見があったことに驚きです。

余談ですが、宇宙物理では、不明な物質やエネルギーのことを「ダークマター」「ダークエネルギー」と呼びますが、細胞生物学でも同じ(古代ギリシア語で「暗黒」を表すエレボを採用)なのが個人的にくすりとしました。

それはともかく、そもそも今の「細胞死」について整理しておきます。

大きく分けると、下記のように大別されます。

1.制御された細胞死:
 1)アポートシス:元々分子機構としてプログラムされたもの
 2)ネクローシス:ある事故的な作用をきっかけにプログラムされるもの
 3)オートファジー:自己を分解して別の体内細胞が捕食される

2.制御されない細胞死(外部危害など事故的な作用による細胞死)

今回見つかったのは、1のどれにも属さない「エレボーシス」と名付けられたもので、腸の細胞から判明しました。

細胞死の研究は結構歴史が浅く、アポートシスが初めて命名されたのは1972年です。
それまでは、2)のネクローシスが細胞死全体を指していましたが、どうも事前に制御された特殊形態のようだということがぼんやりと分かってきてスピンアウトします。

1980年代になると、分子遺伝学の発展で、簡易な生物(線虫)の遺伝子を解析でその分子内で設計されたプログラムコードのソース(ロジック)がよりクリアに見えてきます。

ちょっと細かいですが、ced-3遺伝子が、アポートシスで中心的な役割を担う「カスパーゼ」をコードで設計することが分かったのです。

そして今では、さらに細分されたパターンも命名されて研究が進んでいます。(混乱するだけなので名称は割愛)

本当にこうやって書くと、人体はデジタルコンピュータっぽいですね。

一方で、それまで細胞死として定義されていた「ネクローシス」はきっかけは外部損傷ですが、そのあとはある程度コード化されています。

実はこれも、近年の研究で分かったことです。
そしてそのコード分類によって、アポートシス同様ネクローシスもさらに細分化された命名と研究が今でも進められています。(書いていてどんどん覚えきれない自信だけが膨らみます)

あまり分類しすぎないよう、両者の違いをもう少し細胞内でのマクロ現象でみると下記の図が分かりやすいと思います。

出所:https://m-hub.jp/biology/4434/321


ちなみに、ちょっと意地悪な質問をすると、なぜ細胞死を研究するのでしょうか?

もちろん純粋な知的好奇心は言わずもがなですが、難病治療にも大きく貢献します。

例えば、認知症で有名な「アルツハイマー」。新薬が承認されたりなにかと騒がしい研究分野です。

実はアルツハイマーと細胞死が関わっているのではないか?という研究性kが今年になって発表されています。

アポトーシスの1分類にあたるフェロトーシスの相関性が認められたので、もしかしたらアルツハイマーの治療として使えるかもしれない、ということです。

今回紹介した研究はこの半世紀でぐんと分かってきたことです。

そして冒頭の新しい細胞死を探究することで、あたらしく細胞死の考え方の枠組みも変わるかもしれません。

変なたとえですが、まさに科学は従来の理論的枠組みを壊すことで常に新しい理論が生まれてきました。

細胞死の研究は、難病克服という意義も高いので、今回の発見に伴う動向も含めてWatchしていきたいと思います。

※アポートシスについて、主に参考にしたサイト


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