脳の統一理論提唱者の企業がOpenAIへラブレターを送る
先日、AGIに近づきつつあるLLMの発展から、派生的に期待が高まる脳の大統一理論の候補として「自由エネルギー原理」を紹介しました。
提唱者は脳科学者カール・フリストンです。
タイトルの「自由エネルギー」という語感がやや似非科学的(熱力学分野でヘルツホルムが名づけ、そこから着想を得たもの)で誤解する方もいるかもしれません。
が、ちゃんと論文を出してそれを支持して研究する方々もいます。
もっと客観的に言えば、AIが毎年神経科学者をランキングする仕組みがあり(論文引用などを参考)2016年に1位になっています。(出所はこちら)
自分のことを書いてくれていてもAIは忖度しないので、これは公平な評価といえるでしょう。
実はフリストンは、AIベンチャー企業にも科学責任者(主任研究者、のほうが分かりやすいですね)として所属しています。
Verses という企業です。
Versesの目指すのはOpenAI同様AGI(人工汎用知能)で、フリストンが中心となって編み出した能動的推論(内部にモデルを作って外部との誤差を常に最小にしようと推論を続ける)をコアに設計されています。
LLMは、深層学習をもとに我々人類がネット上に書いた言語で学習させた、きわめて「人工的」な構築物です。
そしてそのフロントランナーが、ChatGPTで一世を風靡した、AGIを目指すOpenAIです。
Versesはその相対する方法、つまり自然(脳の共通原理)から学ぶアプローチをとっています。
改めて説明すると、AI に自由エネルギー原理を組み込むことで、リアルタイムで推論、学習、計画、予測を行うアクティブ推論エージェントとして、あらゆる物理システムをモデル化することができます。
ただ、だからといって従来の人工的なアプローチに対して排他的な態度をとっているわけではないです。
実際に、かれらが提供するGeniusというAIプラットフォームでもGPTをはじめとした主要なLLMが使えるようです。
そして先月、OpenAI(の取締役会)に対して公開書簡を出して話題になりました。
こちらでその原文を読むことができます。
営利企業なので、当然自社の認知力向上や売り込みの意図もあるでしょうが、AGIへの過渡な競争をやめたいという流れで友好的に書かれています。
これに対する返信は公開情報を見る限りはまだありません。
ただ、すでにアルトマン個人が投資家として脳を模したチップを開発するRain AIに出資しており、最近OpenAIとしても触手を伸ばしているようです。
つまり、アルトマン含むOpenAI陣営も、(Versesが公開書簡で指摘した)深層学習だけではAGIは難しいことを感じている可能性もあります。
(念のため、RainAIはあくまでAIチップであり、Versesのように能動的推論を実装しているわけではないです)
2024年は間違いなく、脳科学とAIのデートが増え、もしかすると結婚にまで至るかもしれません。