気象学史3:100年先を見通す真鍋叔郎の気候モデル
前回の続きで、科学技術を軸とした気象学の歴史です。
前回は、物理法則(流体力学)をコンピュータで計算する勃興期について触れました。立役者はジョン・フォン・ノイマンという天才です。彼は多分野で偉業を残しており、過去の投稿を載せておきます。
ノイマンが考案した初期のコンピュータでは、1日先を予測するのに1日の労力を費やすという非効率なものでした。
それでもノイマンは将来のコンピュータ性能向上も見越して、1日どころか何十年先までの気象予測を目指していました。そしてその役目を、ENIACプロジェクトにも携わった、米国気象局のジョセフ・スマゴリンスキーに託します。ちなみにノイマンはその2年後(1957年)に54歳という若さで亡くなってしまいます・・・。(一説には原爆開発時の被ばくが原因とささやかれています)
ここで1つ天気予報の問題点を挙げておきます。
天気予報は、数日先の予測ならコンピュータの性能によっては可能ですが、それが数週間になってくると、最新のコンピュータですら予測が難しい「カオス」現象が知られています。
カオスで有名なのが、初期値が少しでも変わると結果が予想も出来ないほど大きく変わる「バタフライ効果(ブラジルの蝶の羽ばたきがテキサスの竜巻を起こす)」で、これも元々は気象学者(スマゴリンスキーの同僚)から誕生した言葉です。
スマゴリンスキーは、数十年先という長期の気象予測には、カオス化する実データをそのまま使うことを避けました。その代わり、運動方程式、熱力学、放射伝達といった気候の「統計値」を通じて、大気組成・表面放射・海洋の循環がどのように変わっていくのかを予想しようとしたわけです。いわゆる「気候モデル」と呼ばれる史上初の試みです。
彼は、その壮大なビジョンを実現するために多くの天才を集め、育てたことでも評価されています。
なかでも、彼が招聘した天才の一人が日本生まれ(1958年に米国移住)の科学者「真鍋叔郎」です。2021年のノーベル賞受賞で日本でも知られるようになりました。
真鍋氏は、1969年に大気大循環モデルと海洋大循環モデルを組み合わせた「大気海洋結合モデル」を世界で初めて発表します。詳細はノーベル賞公式サイトの解説をお勧めします。
この原型を元に、今でも地球規模の気候モデルが磨かれており、近年話題の気候変動についても、真鍋氏がCO2と地球温暖化の関係性を指摘しました。
ちなみに、このモデルは将来だけでなく現代から過去の探索にも使うことができます。そして他の分野にも今ではこういったシミュレーションはよく使われ、宇宙の過去をシミュレーションする方法でも採用されています。1つだけ記事を紹介します。
今回は短期の天気予報というよりは、長期的な気象予測の話でした。次回は改めて天気予報の技術革新について触れてみます。
<参考リソース>