2023ノーベル化学賞:量子ドットが世界に彩りを与える
10月4日に、ノーベル化学賞が発表されました。
今回は、昨年と今年の物理学賞と同じく「量子力学」絡みになります。いかにこの技術が発展しているのかが分かりますね。
また、もう少し今年の物理学賞との共通テーマをあげると「ナノテクノロジー」ともいえるかもしれません。
これは特定の技術というよりは、ナノレベル以下のテクノロジー総称です。
量子とナノはある意味不可分です。
というのも、量子効果が出るのが10の-9乗のナノレベル以下(特に明確な決まりはないです)だからです。
今回の「量子ドット」という耳慣れない用語です、意外にも日常で我々が近くする「色」に関係します。実際に当日の説明会でも小道具を用意していましたので印象的でした。
ざっくりいえば、受賞者3名中2名がそれぞれ別の方法で、ナノレベルの結晶で発光する色が大きさを変えるだけで変わることを発見します。
そしてもう1名が、その基礎理論をもとに安定的に製造する技術を開発することにしたわけです。
まず、我々が色を知覚する、という現象を物理学的に言い換えます。
そもそも色とは電磁波のうち可視光線(電磁波の一種)の周波数によって「ある程度」決められています。
ある程度、といったのは受け手(我々)の処理によって厳格にはぶれがあるからです。
それ以上は本筋とそれるので、興味のある方向けに過去の関連投稿を張り付けておきます。
ここでのポイントは
色とは周波数に依存する
ということで、色が変わるとは発光体の周波数が変わることを意味します。
もう少し堀り下げると、物質は光を吸収の仕方で出力する周波数(つまり色)が変わってきます。
そして、それをナノレベルで制御することに成功したのが先達の2名の貢献です。
時系列でみると、アレクセイ・エキモフ氏が1979年に行った「ガラス」の研究が先立つようです。
その論文から実験結果を引用します。
ちと分かりにくいですが、横軸は半径で縦軸はエネルギー(つまり周波数であり色に影響)を表していると思って下さい。
ようは、半径を変えると色が変わる、ということを意味します。
半径を変える、とさらっと書きましたが、ナノスケールの結晶構造を制御したわけで、素晴らしい技術です。
このときはまだその名前はありませんでしたが、これが史上初の「量子ドット」の合成です。
ただ、この実験はあくまで基礎研究に閉じており、応用には不向きでした。
そのわずか数年後に、2人目のルイス・ブルース氏が独立に(読む限りはエキモフ氏の研究は知らなかったようです)量子ドットの合成に成功します。
今回はガラスではなく、CdS・ZnOなどコロイド結晶と分類される物質をつかったもので、光を当てると反応しやすい特性がありました。
興味深いことに、ブルースは古い(初めは微小だったのもの同士が集まって大きくなった粒子)CdSと新しいそれとの間で、光スペクトル(エネルギーでOK)の吸収に違いがあることに気づきます。
従来は単なる「異常」と蓋をしていたこの現象を、これは量子効果によるものだ、と喝破したのがブルース氏の慧眼です。
これらの発見(特に後者)を踏まえて、3人目の受賞者ムンジ・バウェンディ氏は、より洗練させた合成方法を編み出しました。
その実験成果が下記の図です。わかりやすくなってますね☺
今回の化学賞は、物理学賞同様に今のエレクトロニクス分野に多大なる可能性を与えています。
それはどこかで掘り下げたいと思いますが、まずは今回の受賞者に心からの祝福をお届けします。
<イベント案内>
ノーベル賞2023年の自然科学3分野を砕いて紹介するWebinarを開催します。カジュアルな場なので、気軽に遊びに来てください。
<参考リソース>