数学と物理が邂逅する結び目理論:その2
前回の続きです。
ざっくり要点を書くと、
原子モデルの研究手段だった結び目理論が独自に発展して、自然科学との新しい出会いにつながった、
という話です。
まず、純粋数学としての結び目理論の立役者を二人あげておきます。
一人はジェームズ・アレクサンダー(1888-1971)で、結び目を分類する数式を考案しました。
余談ですが、この方アインシュタインやフォン・ノイマンとともに、初代プリンストン高等研究所の教授として選ばれた超エリートです。
フォン・ノイマンを知らない方のために過去の投稿を引用しておきます。
この数式は「アレクサンダー多項式」と呼ばれ、この値が違えば別の結び目だよ、ということですね)
数式ができたならもう完成ではないか?と思うかもしれません。
が、後年になって同値でも別に分類できるケースが見つかり、その課題を踏まえてさらに完成度を高めたのがヴォーン・ジョーンズ(1952-2020)という数学者です。
ジョーンズは、上記で一瞬登場したフォン・ノイマンが考案した関係式(フォン・ノイマン環と呼ばれ、上記投稿でも触れてる通り、量子力学の数学的基礎付けとして考案)が、結び目理論と似ていることに気づきます。
そしてこの発想に基づく研究を深めた結果、アレクサンダー多項式より精密な「ジョーンズ多項式」を発明します。1980年代の話なのですでに現代の話です。
この多項式の登場で、他の数学者の関心を一気にひきつけていき、さらに精緻な多項式が続々と考案されます。(言い方を変えると、それだけ奥が深いというべきか・・・)
純粋数学にとどまらず、このころから自然科学への応用も絡まってきます。
特に個人的にユニークだなと感じたのが、なんと生命科学分野にあたる「DNAの解析」です。
???・・・だと思います。
DNAは二重らせん構造をとっているのはよく知られています。
そしてDNAには、4種類の塩基からなる配列情報が詰まっています。
遺伝とはこの二重らせんのDNA内にある塩基情報をタンパク質として変換していく過程(ちょっと乱暴すぎる表現ですが)です。
そのためにまずは、塩基配列を複製して合成するために、この二重らせんを「ほどく」必要があります。
ここまでかくと、なんとなく言いたいことが見えてきたと思います。
実際にDNAを切断したり合成の役割を担うのは「酵素」ですが、この結び目構造を読み解くことで、酵素の反応速度、もっといえば作用メカニズムを推測することができます。
これはなかなか熱い応用です。(自分だけ?)
そしてもう1つ。
前回、結び目理論はもともと、当時物質の最小要素と思われた「原子」をモデル化することではじめて自然科学と出会いました。
なんと、原子よりもっともっと基本的な物質探索に、結び目理論が再び登場することになります。ある意味原点回帰とでもいえますね。
次回はそのお話です。
<参考リソース>