細胞の謎「ヴォールト」:金庫に隠された魅惑の役割
細胞はまだわかっていない謎があります。
その1つが、ヴォールトと呼ばれる細胞小器官です。
奇妙な名前ですが、まずは形をご覧ください。
人工的かと見間違うぐらい美しいフォルムです。これは教会の建築様式でみられる形状に似ており、「ヴォールト」と呼ばれることからその名前が拝借されました。
従来の顕微鏡では見つからず、電子顕微鏡など最新技術でやっと見つかりました。
ただ、謎なのはその機能です。過去に遺伝子編集技術でマウスからこの器官をなくした(ノックアウト)のですが、あまり変わらなかったという報告もありました。
ただ、どうも核と核外の伝達や、免疫系に関わっているかもしれない、ということが分かってきています。
こちらの記事で、この謎のヴォールトについて詳細に書かれています。
記事内に、色を付けて識別しやすい細胞内の図があるので引用します。
数千のヴォールトが核内外で存在することが分かります。
このヴォールトがなぜ存在するのかについてはまだ研究が続けられていますが、並行してその応用も研究されています。
上記記事で紹介されているのが、薬を届けるカプセルとしての活用が期待されています。
難病の1つ「がん」に対しては、その免疫を誘発するCCL21という低分子が以前より注目されてましたが、なかなか患部に直接かつ継続的に届けることに苦慮していました。
それをヴォールトを入れ物としてゆっくりと届けてはどうか?というアイデアです。
このアイデアは知財化されベンチャー企業としてたちあがりました。下記がその企業HP。
もう1つが、遺伝子治療の支援です。
今、ウイルスの機能を使って免疫機能を高める方法が模索されています。以前の関連投稿を載せておきます。
この治療向け遺伝子を送るのにAAV(アデノ随伴ウイルス)と呼ばれるウイルスに注目が集まっていましたが、既に免疫がある(つまり迂闊に近づくと悪者と勘違いされて退治される)ケースが多くうまくいきませんでした。
それを、正義の羽衣(?)のヴォールトで包んで送ってあげてはどうか?というユニークなアイデアです。
他にもすっかり時代の寵児となったmRNAワクチンを届ける伝達用途の検討も進んでいるようです。
ヴォールトは日本語で「金庫」と訳すこともあります。
この謎に包まれた細胞内の金庫室が、思わぬ生命科学のブレークスルーにつながる日が近づいています。