ナノテクと細胞工学が革新的な免疫強化法を発明
生命科学どころか科学全体で話題のトピックの1つは、「m(メッセンジャー)RNA」です。
いわずもがな、これを伝達手段としたワクチンが世界的に話題になったことで、今でもがん治療などへ応用が研究されています。
mRNAと響きが近い用語に「mi(マイクロ)RNA」があります。(紛らわしい・・・)
名前のとおり、塩基の数が20個程度しかない短いRNAのことです。
名前とは逆に、このミクロなRNA分子の影響が大きくなりつつあります。
最近、こんな発表がありましたので紹介します。
ようは、
miRNAを使ってT細胞を人為的に活性化することに成功した、
というはなしです。
T細胞とは、白血球内にいる免疫細胞です。つまり、体内の異物を退治する役割ですね。以前にも紹介したので過去投稿を載せておきます。
上記に触れている通り、T細胞は獲得免疫とよばれる学習型の機能を持っています。
まだ敵を見つけていないウブ(死後?)なものを「ナイーブT細胞」と名付けられます。
もしある細胞がウイルス(悪者)に感染されたら、スパイの如くある細胞(樹状細胞)がT細胞にささやき(鍵のように結合)、それを基に活性化して退治モードに切り替わります。
好意的にとらえると、このスパイ行為を人為的に制御できさえすれば、T細胞をうまくコントロールして免疫機能を最適化できるというわけです。
普通にT細胞にちょっかいを出すと、そのナイーブさが失われ、本来の獲得免疫としての機能が弱まってしまいます。
今回の研究内容は、それをナノワイヤを使用してmiRNAをT細胞内に配達することで、ナイーブさを失わずにT細胞を活性化することに成功した、というアクロバティックなものです。
先にmiRNAの役割についていえば、「遺伝子発現の調節」するスイッチのような機能があることが分かっていました。(といっても21世紀の話でまだあたらしい分野です)
問題なのはどう繊細なT細胞にまで届けるかでしたが、その方法が「ナノワイヤ」です。発表された図を引用します。
針のむしろに置かれたビー玉を連想しました。名前のとおりナノメートル(10のマイナス9乗)の単位なので改めて凄い技術です。
シリコンウェハースで作成したこの針の上を数時間かけてmiRNAを運び、完了するとこのゴールに相当する接合部をシャワーのように洗い流して処置完了というわけです。
今回は伝達してナイーブさを失わないことが確認されたので、次は本来の目的である免疫機能として、標的の異物(がん細胞や悪性腫瘍など)への攻撃力が高められるかを試験していきます。
記事内では、歩兵をエリート(またはスーパー)戦士に生み出す細胞プログラミングと例えています。
日本では小学生のプログラミングが必修になりましたが、ミクロの世界でも細胞プログラミングが当たり前となる日が遠からずやってきそうです。