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シャープレス氏の業績にシャープに迫ってみる

前回に、ノーベル化学賞2022の概説を書きました。

このうち、シャープレス氏は2度目で、1度目の共同受賞者 野依氏インタビューも上記内に挿入しました。

2度目受賞者は歴代で5人目で、過去の偉人を参考として列挙しておきます。

マリ・キュリー放射性物質の研究(物理)、ラジウムとポロニウムの発見と研究(化学)
ジョン・バーディーントランジスタの発明(物理)、超伝導理論(物理)
フレデリック・サンガータンパク質のアミノ酸配列決定法(化学)、DNAの塩基配列決定法(化学)
ライナス・ポーリング化学結合の研究(量子化学の先駆者)(化学)、核実験への反対(平和)

今回は、シャープレス氏の1度目の受賞内容とそれに絡んだトピックを紹介します。

まず、シャープレス氏のWikiを引用しておきます。既に2度目の受賞内容も記載されています。

一度目の受賞内容を一言でいえば、「立体選択的な酸化反応」です。

これだけだとさっぱり分からないので、砕いて言い換えます。

例えば、右手と左手は見た目と機能は似てますが、完全に重ね合わせることはできず、ちょうど鏡のように反転しています。

自然界の物質も、原子・分子結合から構成されていますが、右手・左手と同じように鏡で重ね合わせる2種類が定義できます。これらを鏡像関係と言います。

で、ここから謎なのですが、「なぜか地球内の有機物質(我々を構成する生体分子含む)は左利きだけが存在」します。

但し、普通に化学物質を合成して作ると、右利きと左利きの両方が生成され、上記の都合で地球上の物質では左側しか使われないのです。左利きのゴルファーには左利きのクラブ、といったところでしょうか。

つまり、「右利き」は不要な生成物となります。

シャープレス氏の研究テーマは、必要な「左利き」だけを合成する仕組みを作ることで、これを専門用語で「不斉(ふせい)合成」と呼びます。

結論だけ書くと、左利きの実の物質を合成するには「金属物質」を触媒とするとうまくいくことを解明しました。
これらはいくつかのパターンがあり、シャープレス酸化やシャープレス不斉ジヒドロキシ化と名付けられています。

今回の2回目受賞は厳密には別の研究テーマですが、並行してこれらを行っており、1回目の受賞後には2回目の研究を本格的に進めています。(大体ノーベル賞は数十年前の業績が評価されることが多いです。あまりにも分かりやすい偉業だと即時受賞もたまにあります。重力波発見もその1つ)

このシャープレス氏のあくなき探求心は本当に尊敬します。

実は、2021年の化学賞は、やや1回目の受賞に関係する受賞内容でした。

ようは、それまでは触媒として(シャープレス氏も試みた)金属が多用されてきたが、それに頼らない「有機触媒」という新しい方法を編み出した功績です。

こう見ていくと、歴史的に俯瞰するといかにシャープレス氏のこの分野における影響の大きさが何となくわかりますね。

余談ですが、地球上でなぜ左利きしか存在しないのかは今でも謎のままです。太陽光による反応プロセスの結果や、左利きの隕石飛来説などありますが、有効なものはまだ聞こえません。

ちなみに、地球上でユニークであることは、最近のはやぶさ2が持ち帰ったサンプル解析結果からも分かっています。

これも生命誕生のミステリーで、今回の地球外有機物の解析を通じて、いつかは解明されるかもしれません。

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