ノーベル賞受賞者がCRISPR-CAS9の特許取り下げ!?
2024年度ノーベル賞の発表は最短が生理学・医学賞の10月7日で、あと1週間に迫りました。
毎年世の中に評価された研究内容が称えられているわけですが、個人的にはこの10年で見てもっとも世の中を変えたのは遺伝子編集技術「CRISPR-CAS9」だと思います。
これによって、従来時間と手間とお金がかかっていた遺伝子編集作業が、劇的に簡単かつ廉価で実現できるようになりました。まさに今の生成AI同様に、バイオテクノロジーの民主化を実現したといってよいと思います。
このブログでも何度かこの技術に関連して触れました。2022/8の記事を引用しておきます。
こちらにあるように、世間ではノーベル賞受賞者のダウドナ氏とシャルパンティエ氏が知られていますが、実は特許論争は泥沼化しています。どころか、紛争相手のブロード研究所(所属のフェン・チャン氏)側に有利な判決さえ米国で下されてしまいました。
込み入った話(かつ楽しくはない)なので完全に理解しているわけではないのですが、重要なトピックなので、上記記事と参考リソースをもとに雰囲気を伝えておきます。
まず、今でも(特許はさておき)歴史的な瞬間とされるのは、2012年5月に受賞者二人がCRISPR-CAS9に関する論文を提示した事実です。そのあとに米欧など特許申請手続きに入ります。
一方紛争相手のチャン氏は、同年12月にScience誌に掲載された直後に特許申請を行い、結果としてこちらのほうが米国で優先権を認められた判決が出てしまいます。
これだけだと不可思議に聞こえますね。
実は、特許申請を早める追加費用を払ったのが理由の1つです。一方で、受賞者側はそういったテクニック自体を知らなかったとのこと。(今回がほぼ初体験)
そしてもう1つ。論点は、単にCRISPR-CAS9という原理の発明有無ではありません。
受賞者側が汎用的なCRISPR-CASの成果を植物(核のない細胞)をサンプルにして主張したのに対し、チャン氏はその原理を応用したヒト(核を持つ細胞)への具体的なガイド方法を特許として主張していました。
ただ、米国とは異なり欧州では、チャン氏の特許申請手続き上の不備(途中で過去論文の共同執筆者を削除。これも倫理的には物議を醸しました)を理由に、優先権を認めていませんでした。
というのが、今までの大まかな経緯でした。上記内でも引用した下記記事が、CRISPR-CAS9の基礎理解含め丁寧に解説しているので、細かく知りたい方にお勧めです。
ところが、その欧州でさえ、そのあとに不利な判決が下されたらしく(詳細までは細かすぎて終えず・・・)、それを不服として前代未聞の「特許取り下げ」騒動が起こっています。
今では日本含めて世界中で特許を取得していますが、その影響力ともなりえたのがこの欧州特許でした。それが覆されると他の特許論争にも悪影響を与えかねない、ということで思い切って特許申請をなかったことにしよう、という、ある意味、焦土作戦です。
心情的には受賞者側よりですが、どちらの肩を持ちたいわけではありません。
膨大なライセンス料金が発生する科学技術の特許論争は今後も起こりえる可能性があります。
これを(当事者には不謹慎ですが)教科書として、二度と同じ悲劇が起こらないように国際的な特許制度整備に努めてもらいたいです。
<参考リソース>
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