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戸塚洋二と地球で最も静かな実験バトル

今の基礎科学界での話題は、ノーベル賞に関するものが多いと思います。

ノーベル賞は故人には与えられないルールがあり、またたとえ存命であっても、同じ研究テーマには最大3名という慣習的な取り決めがあります。

現代科学は共同研究が常であり、昔アインシュタインがほぼ独力で築き上げた相対性理論のようなことが起こる可能性は極めて低いと思います。

そんななか、2015年にニュートリノの振動を間接的に証明した業績で、梶田隆章とアーサー・B・マクドナルドの二人がノーベル物理学賞を共同受賞しました。つまり、通例ではあまりない「二人」だけだったわけです。

ノーベル財団は正式にコメントしていませんが、もう一人それに相当する人がいるが、既に故人であったためあえて二人にとどめたのではないか、という説がささやかれています。

その方の名前は「戸塚洋二」で、2002年のノーベル物理学賞受賞者 小柴昌俊の愛弟子でもありました。
もっといえば、梶田氏は戸塚氏の指導を受けていますので、兄弟子のような存在ともいえます。

戸塚氏は残念なことに、2008年にガンで亡くなりました。
実は、上記のマクドナルド氏と戸塚氏は、その前年の2007年にベンジャミン・フランクリン・メダルの物理学部門を共同受賞しています。
こういった経歴もあり、誰もがふさわしいのは戸塚氏であろう、という思いをうけて、3人目をあえて空白にして2名受賞としたのかもしれません。

実は最近、戸塚氏の母校生徒による関係者インタビューで生前の活躍が明らかになりました。

2001年にカミオカンデの大規模事故を受けて引責辞任という結果になりましたが、上記での現場の声を聞くと、それでもあきらめずにたったの1年で回復出来たのは戸塚氏のリーダーシップに寄ることが大きいようです。

そんな過去の偉人を受けて、今スーパーカミオカンデは次バージョン「ハイパーカミオカンデ」に向けて着々と建設中です。下記の息をのむような内部の写真をご覧ください。

出所:science.org/content/article/showdown-two-huge-neutrino-detectors-will-vie-probe-matter-s-origins

ニュートリノの実験研究は日本で盛んなイメージがありますが、実は同じような研究をしている最大のライバルが米国にあります。

最近のSciense誌で、2つの研究所を比較しながら今の現状について分析した記事が公開されていたので引用しておきます。

そもそもですが、今のニュートリノ計測を通じた目的は、第一に「CP対称性の破れ」と呼ばれるものです。(余談ですが、次が「陽子崩壊」の観測で、元々小柴氏はこれを目的とし、途中でニュートリノに方針変更しました)

超ざっくりいうと、宇宙初期では物質と反物質の対称性が崩れていた、だから今は(理論上はあるはずの)反物質がほぼなくなった、ということを実験で証明するということです。

このあたりは小難しい話になるのですが、それ以上は過去の投稿にも触れているので引用にとどめておきます。

上記のSciense誌で紹介された最大のライバルが、米国の複数研究所で進められている「DUNE」です。(タイトル画像はDUNE内部画像)

両者のアプローチの違いを本文内で図で示しているので引用しておきます。

出所:上記誌内。左がDUNEで右がハイパーカミオカンデのニュートリノ検出方式

一見距離が違うのが目に留まりますが、それよりもそもそもとして検出方法が異なります。

ハイパーカミオカンデは、それまでのやり方を踏襲し、真水内を通るニュートリノが特定原子と衝突したときの光反応で間接的に検出します。

一方DUNEは、液体アルゴンで満たされた 2 つの長方形のタンク同士で、ニュートリノがアルゴン原子核に衝突したときに生成されるすべての荷電粒子を計測する方法です。

新しい技術を採用しているのはDUNEですが(直接的に生成物をけ計測できるのでエネルギー量も分かる)、ハイパーカミオカンデは従来の経験値含めた実績とそれに基づく完成スピードが数年速いというのが利点です。

記事内では、検出手法の優劣だけでなく、自然の気まぐれにも支配されるため、場合によっては両方がタッグを組む可能性もある、と言及しています。

おそらく科学実験のなかでも、規模とその静けさが要求されるレベルは世界トップだと思います。

勝ち負けはともかく、戸塚氏のような隠れた貢献者が知られることと、宇宙の物質創生起源を明らかにする本研究の進展を、心から願っています。

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