ダークマター(暗黒物質)探求ものがたり#2
前回の続きです。
1930年代に、銀河の動きを観測していたツビッキーが目に見えない(光を受け取らない)物質をダークマターとして提案しました。
ところがダークマターはその後「失われた30年」を迎えます。
1940年代から第二次世界大戦が始まり、それに関係する素粒子物理学(核エネルギーの抽出ですね。加速器の進化も)に注目が集まったのではないかと思います。
特にアメリカでは、優秀な物理学者はマンハッタン計画など戦争に駆り出されました。その最たるものは、最近新たな伝記(和訳)が販売されたマンハッタン計画の科学責任者オッペンハイマーです。
実はオッペンハイマーの専門は元々天文学、特にブラックホールになる条件を研究していました。前回の主役にあたるツヴィッキーさんと似ています。過去の関連記事を参考までに載せておきます。
変な曲線とダークマターの再燃
1970年代になって、より天体観測の技術が高まっていくと、事態が変わってきます。
我々の最寄りとなるアンドロメダ銀河の回転速度を精緻に観測することができるようになり、その結果思いもよらない事実が判明します。
横軸のRadiusは中心からの距離だと思ってください。
このグラフの何が「変」なのか?
天体の動きはニュートンの運動法則を使います。(一部では一般相対性理論で補完)それによると、距離の二乗に反比例するはずです。
実際、われわれがいる太陽系で同じような観測データはこんな感じです。
これと比較すると、あきらかにアンドロメダ銀河は中心から遠ざかってもこの法則に従っているようには見えません。
ここで、ダークマターが復活します。見えない物質が銀河の外側(遠距離)に纏わりついており、その質量で回転が速くなっているという仮説です。
後年の研究で、アンドロメダ銀河に限らず多くの銀河で同じような現象を得ます。つまり、銀河にはほぼすべてダークマターが外縁にまとわりついていることが分かったのです。
宇宙の大規模構造からもダークマターが浮上
1980年代には、より広範囲に宇宙を探査することができるようになりました。
上図のような糸状(フィラメント)構造で、明らかに濃淡が分かります。
宇宙初期の「密度ゆらぎ」が種となり、宇宙膨張に従ってむらができていくわけです。
そしてこのころから、コンピュータを使ったシミュレーションも進み、そこで不都合な結果が生じます。
シミュレーション結果ではこのような構造にならず、常に星々がバラバラな状態となってしまいます。
つまり、この星(または銀河)同士をつなぎとめる重しのような存在が必要で、「ダークマター」の存在がクローズアップされます。
このように、宇宙の解像度が上がるほどやはりダークマターが不可欠という流れとなっていきます。
見えない物質とはいえ、「重力レンズ」の手法を使って逆算的に質量を見積もることはできます。
重力レンズの歴史について関心のある方は過去投稿を参照ください。
見積もった結果、なんとダークマターは我々が知る物質よりも5倍以上にもなることが分かりました。(投稿時点での最新情報で、当時は若干異なる)
つまり、物量だけで見ると、宇宙の主役はダークマターだということです。
ところが話はさらに話は飛躍します。
21世紀を迎える直前に、このダークマターすら凌駕するとんでもないことが判明します。(次回に続く)