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ダーウィン進化論とイスラム教

ダーウィンの進化論によれば、人類はサルから進化したことになります。
このことで、人類起源に言及する宗教とはしばしば衝突が起こります。

有名なケースがキリスト教、いわゆる神による人類創造のくだりです。過去の関連投稿を載せておきます。

ちなみにアメリカは州単位で進化論のスタンスを決めていますが、トルコでは国全体として大学まで進化論を教えない、という方針を2017年に出しています。

トルコはほぼすべてがイスラム教です。既にキリスト教に次ぐ世界最大宗教信徒数を誇っています。

そんな経緯を踏まえて、Science誌に最近投稿されたこちらのインタビュー記事とその著作が非常に興味深かったので紹介します。

この著者であるショアイブ・アハメド・マリク(Shoaib Ahmed Malik)氏は、元々イスラム教とは無縁だったのですが、化学の博士課程でのとある出来事からイスラム教をゼロから学び始めます。
そしてなんと2023年に科学者から神学者に転身し、今では「宗教科学者」というユニークな立場で米国の大学で教鞭をとっています。

マリク氏がやっていることを一言で言えば、ダーウィンの進化論とイスラム教との調和を図ろうとしています。

マリク氏は、11世紀のイスラム学者であるガザール氏の研究を通してこの問題をとらえ直し、イスラム教では進化論のより寛容な解釈が認められていると主張しています。

イスラム教の基本を確認しておきます。

予言者ムハンマドが唯一神(アッラー)のお告げを唱えたクルアーン(コーラン)に従うのが原則です。そして(他の宗教同様に)その解釈と強制性で宗派が分かれています。

マリク氏は、決して科学と宗教どちらかに決着を付けようとしているのではなく、あくまでお互いの対話の枠組みを提供しようとしています。

彼が導入した論法が、「クルアーンに書いてあることに従う」というイスラム教の基本を裏返して、
「書いていないことは反対もしていない」
というスタンスで科学との調和を図ろうとしています。

例えば、地球外生命体の存在はクルアーンでは触れていないので議論の余地があるというわけです。

そういったことを考察した上記著書は当初の想定以上に反発が少なかったようで、もしかしたら世相も変わりつつあるのかもしれません。

マリク氏が上記インタビュー記事でイスラム教徒の科学者にあてた次の助言が印象に残りました。

「先に神学を学んでおけば、視野が広がるため(自分は)優れた科学者になれただろう」

昔だったらピンとこなかったのですが、今は腹落ちできます。

今のAIのあまりにも加速度的な変化に、そもそも人間の知能って何だろうと考えることがあります。

その思索を深めるのは自然科学ではなく、哲学や宗教のような分野ではないかと気づかされます。

今年のノーベル賞が象徴しているように、進化したAIは基礎科学をも多大に影響を与えています。
ただ、現代科学は高度化が進むがゆえに分断化(またはタコツボ化)されがちで、そうなると視野狭窄に陥るリスクが高まります。

ということで、今回の記事を読んで、今こそ科学と宗教との対話が有用だと感じました。

マリク氏に続く宗教科学者が増えることを望んでいます。

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