1000のエージェントが描く仮想社会の可能性
AIの世界では、エージェントという言葉がブームになっています。
以前に生成AIの次の壁を壊す仕組みとしてエージェントに関わる論文を紹介しました。
上記はあくまで作り方として各専門家を連携させるとスケーリングするよ、という文脈です。
ただ、今のブームは自律的な作業をAIに任せようという意味合いです。
各有識者・組織がエージェントへの期待を発信しています。例えば、OpenAI CEOのサム・アルトマンもその一人です。
上記で触れたレベルというのは、過去にOpenAIがAGIロードマップとして提唱したものです。下記に引用します。
まもなく3の「エージェント」レベルになるということですね。
各社ともにエージェントと称した機能・サービスを近々にリリースする予定で、この言葉自体も濫用気味になりそうです。
一旦この言葉を代理人と仮置きして、関連する興味深い研究を紹介します。
ようは、
25の自律型AIが1000人のエージェントの作成に成功した、
という話です。
約1000人の被験者とそれぞれ2時間ほどAIと対話させることでエージェントをつくり、その思考パターンや性格を学習し、80%以上も正確に表現することに成功したということです。
GPT4oをもとにしてインタビューを設計し、その回答をもとにして1000超のエージェントを生成しています。それも回答に応じたフォローアップ質問を生成するなど工夫しています。
完成したエージェント群が元の被験者に近い思考特性を備えたことを測る手段として、従来からよくしられた社会調査テンプレートを使ってその回答類似性を確かめています。
今回の論文では作成自体をゴールにしており、それをどう活用するかまでは下記のアイデアにとどめています。
政策の影響を模擬的に検証
集団行動やネットワークの複雑な相互作用を解析
さらっと書きましたが、社会のバーチャル実験として結構インパクトがあると感じました。
今の社会科学の実験だと、実際に試行する必要があり、例えば経済政策や疫病対策といった大規模になってくると失敗は許されません。
今回は1000人に閉じてますが、テックジャイアントが持つ個人の嗜好性データはそれに勝るとも劣らない量があり、数億人規模のエージェント作成が可能かもしれません。
あくまで公益性を目的とした範囲に限定して、それをもとにしたシミュレーションを行うことは、これからのマクロ判断を行ううえで意義があります。
やや余談ですが、個人的には我々個人が(誰にも利用されない)エージェントを持ち、代わりに選挙してくれる機能があれば、社会への参加が一気に高まって民主主義が改良されるのではと期待しています。
それが悪い意味で発展すると我々がやるべきことが少なくなりますが、いずれにせよエージェントの波は来年も押し寄せてきそうです。