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生命のD&I(Diversity & Inclusion)

前回は、秩序と無秩序が入り混じった「カオスの縁」について触れました。もう少しこれと生命との関わりについて足しておきます。

ポイント(疑問点)は下記のとおりです。
・最も複雑度が高い「カオスの縁」の状態が最も計算能力が高くなる→これこそが生命(突然変異)の原動力?
・カオスの縁は極めて限られた範囲での状態であり、数十億年の生物進化における原動力とするには脆すぎないか?

ダーウィンの進化論は外部環境に応じて生物は淘汰される、というニュアンスです。あくまで外部環境依存です。

それに異を唱えたのが「中立進化論」で、過去にも少し取り上げました。

ようは、外部環境に有利な遺伝子が生き延びたのでなく、むしろランダム性のほうが高い、ということを統計的に唱えたものです。

前々回に触れたカウフマン自己進化論も、おおくくりにするとこのアプローチにみえます。
公開情報を見る限りでは、複雑性が創発される「自己進化」のふるまいを1つの理論としてはまだ確立してはいません。(ただとても興味深いので、引き続きアンテナは貼っておきたいです)

ただ、この外部環境に依存しないランダム化のスパイスによって複雑性が生まれる機構があれば、もう少し腹落ち出来そうです。

この路線で個人的に関心をもっているのが、「不均衡進化理論」です。

日本の古澤満が提唱し、こちらの本人コラムを読むと今も仮説としては残っているようです。過去コラムからわかりやすいものを引用しておきます。

要は、
DNAの二重らせんがほどけて複製する過程で生じる非対称性が突然変異率を高めている(つまり進化の原動力)、
ということです。

二重らせんは決まった塩基ペア(A-T、G-C)でらせん階段を形成しているので、一見対称的と思い込みそうですが、実はそうではないということは以前よりわかっていました。

片方の鎖では、ミクロで見るとDNAが断片的につなぎあって複製されていることが分かり、この断片を発見者の名前をとって「岡崎断片(またはフラグメント)」と呼びます。

イメージとして、下図の断片cがそれにあたります。

出所:CC BY-SA 2.0 de, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=114299

この発見者である岡崎恒子の伝記と一般向け解説を見つけたので紹介しておきます。

この岡崎フラグメントの継ぎ目が、DNA複製時に、さながら日常生活で服が尖ったところでひっかかるようなイメージで、変異を起こしやすくする効果をもたらすようです。

これはとても分かりやすくてかつ今回のテーマに合う現象だと感じました。

勝手な解釈ですが、片方の鎖は秩序だってコピペをし、もう片方(継ぎ目だらけの岡崎断片)はそれを邪魔するかの如くカオスを仕掛けているかのようで、「カオスの縁」に近い風景を感じます。

勿論それを認めたとしても、極めて狭い範囲の「カオスの縁」を創発し続けることを説明するものではありません。

もしかしたら、それ以上は因果関係があるわけでなく、気の遠くなる長い年月を経て、上記の機構で変異率をチューニングし続けた生物の種がたまたま生き残っただけなのかもしれません。

まだこの理論は仮説にすぎませんが、マクロな自然そして社会活動で必要と叫ばれている「秩序と無秩序(既存の破壊)を包んだ多様性」が、実は生命をミクロに探究した内にも潜んでいる、のだとしたらぞくっとします。

最後に、本理論の提唱者である古澤氏のコラム(2022/12/22)を引用しておきます。多様性を受容することの重要性を改めて痛感しました。

DNAは不可思議な物質です。1つの分子の中に保守性(遺伝)と革新性(進化)の両ポテンシヤルを秘めていて、半保存的複製がこれら2つの二律背反する特徴の具現化を可能にしているのです。

出所:https://journal.chitose-bio.com/furusawa_column50/

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