見出し画像

第17回【分類学としてのアニメの話】

2018年12月11日公開 28分45秒

これはポッドキャスト番組「いんよう!」を、個人が勝手にまとめているものです。まったくの非公式です。


★「いんよう!」のHPはこちら↓


★アップルポッドキャストの当該回はこちら↓


★第17回の概要欄

前半はアニソン(『うちのメイドがウザすぎる』のOPとED曲)の話をしています。後半はアニメを「線で見る」楽しみ方についてです。分類学/博物学/系統樹/ブロッコリを逆さに立てて横に切る/縦に切る
*音声中では、「ようこそジャパリパークへ」を大石昌良さんが歌っていると言っていますが、どうぶつビスケッツ×PPPの楽曲の誤りです。すみません。大石昌良さんは作詞・作曲・編曲です。

いんよう!概要欄




ここからは地引網の収穫です。会話部分以外は、意訳や発言順の入れ替えもあります。ご了承ください。




★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ 


「投げつけ萌芽、熱量とブロッコリー」


■ 固有名詞
アニメ     うちのメイドがウザすぎる
        東京喰種トーキョーグール
        攻殻機動隊
        けいおん!
        魔法少女まどか☆マギカ
バンド     バックナンバー 
        ミスターチルドレン
ミュージシャン 星野源
        平井堅
        大石昌良
        ドリームズカムトゥルー
        大黒摩季
映画監督    宮崎駿        
アニソン    ようこそ!ジャパリパークへ(けものフレンズ)
書籍      分類思考の世界/三中信弘(講談社新書)
        系統樹思考の世界/三中信弘(講談社新書) 
人物      サンキュータツオ 



■ 目次
1. 歌詞を届けつつ高い音楽性を保つ、それがアニソン
2. アラレちゃん主題歌と研究の共通点なーんだ
3. よう先輩による「余は如何にしてアニメ好きとなりし乎」
4. 分類、系統樹、ブロッコリー


 


1. 歌詞を届けつつ高い音楽性を保つ、それがアニソン

最初~10分44秒


● 前回「うちのメイドがウザすぎる」(#ウザメイド)のオープニングとエンディングの曲が好き、という話をしたが、その2曲のファイルをいっちーに送り付けるという、ちょっとした暴挙に出た。感想を聞かせてほしい(よう)

いん:曲をいただいた後で、あのー「聴いてね」って。「捨てられるとつらいから」みたいなことを言われてたのが面白かったです、まず(笑)
よう:あ、そうね、送ったときにね。この、おれの照れ、なんなんだろうね。わかんないけど、まあいいやいいや、そうそう
いん:その「照れなんなんだろうね」っていうのもキーワードの一つだと思うんですけど、ん-と、曲自体の感想はですね、あの、こんなに詞を届けようとしている形態の曲って今やアニソンと、歌謡曲以外あんまりないよな、と思ってたんです。

<ヤ先生による「ウザメイド楽曲感想とアニソンについて」>
詞とそれを歌う人の声を聴いてくれ、キャラクターを受け止めてくれ、と曲を作るのがすごい。日本のロックバンド、たとえばバックナンバーは共感を得る歌詞だから、作家性が見えてくるものではない。ミスチルと似てて、1曲の中のメッセージは「そばにいると幸せだよね」だけ。それが世の大半の人にとっては気持ちいい。

インディーズだと「本能寺で待ってる」(注1)とか、歌詞に意味はほぼない。精神世界に落ちてた言葉を拾ってるけど、やりたいのは音源。ギタリストがボーカルやってたら自分のギターのことで頭がいっぱいだし、ベーシストがボーカルやってたらリズムのことで頭がいっぱい。メッセージ性を強めたいときは弾き語りになる。その点、アニソンはアニメの世界が、見たことないのにわかる

送ってもらったアニソンは、すべての楽器にスタッカートがついている。歌詞が入ってくるし、聞こえやすいようにすべてが計算されている感じに、怖さを感じる。技術が極まってて、考えられてるのに、聴く方は歌詞をしっかり聴くように仕向けられているところがすごい。隠れた技術の宝庫。アニソンを作曲、編曲するひとはメタルを聴いてるオタクか?と思うし、技術が高すぎてわけがわからない感じ。

「けものフレンズ」のオープニング(「ようこそ!ジャパリパークへ」)が、星野源とか平井堅などの、ブラックミュージックやソウルが好きな人に絶賛されていた。その前後でアニソンをいくつか聞いてみたら、技術が深すぎてわからなかった。(いん)




● 「東京喰種トーキョーグール」のような本格派作品は作品全体の世界観をもう少しふんわり伝える。J-RockとかJ-Popのバンドが作ったりする。ミュージシャンの作家性とアニメ作品の融合になって、もう少し婉曲的。一方、萌え作品はギャグだし、オシャレなことはやらない。ほとんどキャラクターソング
「ジャパリパーク」(けものフレンズの曲)の大石昌良さんはアニソン界のナンバーワンメロディメーカーと言われている人。作品世界を歌ってるし、歌詞にアニメに出てくる用語がたくさん出てくるからアニソンらしいアニソン。「ウザメイド」の二曲はもっと深まってる。歌ってる人の名義はキャラクター名で、カッコ書きで声優さんの名前が入っている。キャラクターとして歌ってる。声や表現もキャラクターに寄っている。セリフの延長上に歌があるから、歌詞が届くのでは
エンディングなんか曲だけ聴くとめちゃくちゃロックで「エアロスミスか!」って思った(よう)





2. アラレちゃん主題歌と研究の共通点なーんだ

10分45秒~13分22秒


● 以前ツイッターで見た「アラレちゃんの主題歌のサビに歌詞がないのがすごすぎる」というもの。「どんなことが起こるかな」まで盛り上げておいて「イッシシシ」でサビを歌ってるのがすごい、と。ドリカムや大黒摩季もサビで「ららら」とかあるけれど、それは後進で、アラレちゃんのほうが古い、と。(いん)

● 本流じゃないほうが制約が少なくて、あとで振り返ると斬新なことをやっていた、というのはどのジャンルでもあることかもしれない。(よう)

よう:だから、まあね、研究とかもさ、基礎研究とかで、はやってるものだけに予算投下すんじゃねえよって言ってるのも同じことだと思うよ
いん:(笑)すげえ、わかる(笑)
よう:脇でさー、あんま日の当たらないところでさ、こうなんか淡々と自分のやりたいことやってる人がさ、突然それがメジャーに来たりするからね、あとでね
いん:ああ、そうですね
よう:そういうのを切り捨てちゃうと、何十年後かに困るよっていうさ
いん:そうですね
よう:まあ、息の長い話なんだけどさ





3. 余は如何にしてアニメ好きとなりし乎

13分23秒~19分04秒

● 4~5年前までは全然アニメを見てなかった。研究室のアニメ好きな後輩と話しているときに「どういうところが面白いの?」と聞いたら「攻殻機動隊」「けいおん!」「まどマギ」などわかりやすいところを勧められた。見たらめっちゃおもしろかった。

今までの自分ならそれで終わっていたが、サンキュータツオさんのポッドキャスト(注2)を聴いていたら、「(アニメを)文化の一部として語る」ことをしていた。よく言われるのは「線で見る」ということ。宮崎駿ならキャリアの最初から最後まで全部みる。世間的にはあまり評判にならなかった作品も、前の作品を見ていると、「今はこれをやりたいんだな」というステップがわかる。

例えば研究者の論文も一本だけ見たら何をやっているかわからないし、それほどいい論文でもないけれど、その研究者が出し続けている論文を網羅していると「前やってたことと次にやりたいことのつなぎであり準備だ」「今までと違う路線にチャレンジしてるけど、今の段階ではまだうまくいってないんだな」とかがわかる。(タツオさんは)「作品一本だけ見ておもしろくないとかいってんじゃねえよ」と時々キレてる。

時間を追っていく線もあるし、今のシーンを全部見るという横の線もある。広がりをもって見る中で、好きな作品や作家を見ると、情報が多いからこそわかることがある

これは分類学にも当てはまる。ケースを集めて特徴を抽出して分ける。個別のものが俯瞰できる瞬間がある。グループ分けができて特徴がある、ということに快感を覚える人種がいる。いっちーもその一人だと思う。その快感を覚えると事例を集める段階で楽しくなってくる。(よう)






4. 分類、系統樹、ブロッコリー

19分05秒~最後


● そう。あらゆるものがそう見えてくる。三中信弘さんの「分類思考の世界」と「系統樹思考の世界」がいい。(いん)



集めてグループ分けをするのが「分類」。やり方が二つあって、ブロッコリーを立てて横から見たときのように、たとえばヒトとサルがどこからわかれたか、鳥と爬虫類と恐竜がどこから分かれたか、のような進化系統樹を時系列に沿ってみていくようなやり方が一つ。

進化系統樹ブロッコリー

いらすとやってオソロシイですね




もう一つは、系統樹のある点を、ブロッコリーを横に輪切りにして分類しているもの。

イマココ分類ブロッコリー

輪切りってムズカシイですね



この二つは微妙に違う。「分類学」は輪切りで「形態の類似」を見る。(いん)

● 今この地球上にどのような生物がいて、どう分類されるか、は輪切り。
ヒトに至るまでどういう細胞生物から進化して「この経路をたどるとヒトになるよ」というのを追っていくのは縦切り
(よう)

● 宮崎駿で言えば、作品を順番に見て「ここでこんなことやりたかった」と時系列を追うときと、今世の中にある作品を、宮崎駿と庵野秀明で分類するとき、とどちらも面白い。(いん)

● 縦に追っていくとき、別の縦と交わる瞬間もある。生物なら「ここで種が分かれる」「この種とこの種はここで繋がってた」。アニメ作品なら「この人とこの人はこの監督の下で一緒にやってたんだ」とか。(よう)

● それを知り始めるとアニメは単発で終わらなくなる。
後輩に勧められたアニメ作品が入り口としてよかった。それがおもしろくなかったら、ポッドキャストを聴こうと思わなかった。サンキュータツオさんの思考は、どっちかと言われたら「縦切り」。輪切りにすると多くのものが出てくるから語りにくい。理屈っぽい人は理由がつけやすいから、縦のほうがわかりやすい。輪切りにも理屈はあるけれど、理論に還元するのが大変。(よう)


よう:ただ、ただね、ん-と、そのポッドキャストの企画で、毎クールね、第一話を全部見る(注3)って企画があるんだよ(笑)
いん:(笑)
ようこれ横なんだよ。今のモードをとらえるっていうさ。
いん:わかるわかる
よう:とりあえずぜーんぶ、だから50本くらいあるから、それを第一話から最終話まで全部見るのは不可能だけど、それをやったら仕事できないからさ、とりあえず第一話だけ見てみようっていうさ。で、これをサンキュータツオさんは、えと言語学的に言うと、そのね用例収集だって言ってんだよね。言葉がどうやって実際使われているかって用例を集めるわけじゃん、いっぱい。
いん:あああああ
ようどういう文章の中で、どういう意味でつかわれてるのかっていういっぱい集めたうえで、その言葉の持ってる意味、使われ方っていうのをこう抽出していくっていうのが、言語学のこう辞書を作ったりする人の中ではあるわけだけど、
いん:ああ、わかるなあ。すっごいわかる
よう:全力ではできないけど、第一話だったらできるんじゃないかっていうことでやってて、ま、だからおれ、この前、いつだか第一話40本くらい見てるって言ってたけど、そういうことでもあるんだよね。



● 第一話40本分見てるときは、輪切りをざっくりと俯瞰しているわけですね。気になった視点を今度は系統樹的にたどったりするわけか。(いん)

● めちゃくちゃ掘ってる人はいるけど、どのくらいやるかは時間の関係もあるからその人次第。(よう)

● 博物館の展示の時は分類の時と系統樹の時がある。動物園や水族館は横切りが多い。博物館をよく知らない人は、動物園、水族館、博物館と一緒くたにするけれど、博物館は学芸員が縦に視点を変える瞬間があるし、動物園や水族館の飼育員は縦も好きなので、たまに縦に掘るイベントもある。要はアニメ好きがやっていることは、動物園や水族館を各地に行ってみて、この動物好き、と調べているうちに詳しくなる、というのを永遠にやっているのと同じ。(いん)

● どのジャンルも一緒だと思う。次回は声優について思うことを話してみたい。(よう)




(注1)ZAZEN BOYS 「Honnoji」


(注2)「熱量と文字数」

(注3)上記「熱量と文字数」内の企画。「新番組全部見てみた件」略して「新全件」。





********* 感想 *********

● 実はエアロスミスを聴いて40年。よう先輩が「エアロスミスか!」と思ったのはどんな曲なのだろう、ととても興味があって「ときめき☆くらいまっくす」を聴いてみました。なるほど、ギターバックのラップ調が「Walk this Way」っぽい、と思いました。バックにずっと流れるじゃかじゃか系のギターは、エアロスミスのギタリスト、ジョー・ペリーとは違うけれどハードロックなイメージ。誰っぽい、と言えるほどギターは詳しくないです。
なお、まったくの余談ですが、「Walk this Way」リリース当時の邦題は「お説教」。謎邦題の代表作の一つとして記憶しています。



● 調べてみたら、アラレちゃんのオープニングテーマは曲名がありませんでした。そういえば、アニメのテーマ曲が楽曲として独立していくのはいつからなのでしょうか。うすーい知識しかないんですけど、なんとなく体感としてはキャッツアイとかかなあ。
ちなみに、アラレちゃんのオープニング曲って「アラレちゃんとガッちゃんが来た」「みんなペンギン村に集まれ」しか言ってないんですね。


● アニメが好き~タツオさん~分類の話から、ブロッコリーへ続くハンドルさばきがミラクルでした。こういう、思いもよらない展開がいんよう!を聴く醍醐味です。わたくし音楽はジャンルを問わず変拍子が好きなのですが、ウザいメイドさんのアニメから分類と系統樹へ帰結する変拍子的流れにほれぼれしました。


● そしてよう先輩が聞いてほしくて音楽ファイルを「送り付ける」という「ある種の暴挙」が、この先あの「いっちーにアニソンを投げつけるコーナー」という名物企画へと発展するわけですね。記念すべき種まき回でした。

● 今回もありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!