《第7話》カプセルトイ【上方落語の出囃子 】
大阪で育った僕は物心ついた頃から、お笑いが日常にありました。
テレビには毎日お笑い芸人が出ていましたし、土曜日の昼は学校から帰ると「よしもと新喜劇」を見ながら昼ごはんを食べました。
小学校で学級委員になる子は頭のいい子ではなく面白い子。
クラスでモテる子はカッコイイ子より面白い子でした。
そんな環境で育った僕が特に好きだった番組が「パペポTV」と「枝雀寄席」。上岡龍太郎さんの喋りと考え方が好きで、よく上岡さんの考え方を真似ていました。
そして桂枝雀さんの落語が大好きでした。当時はまだ中学生だったので寄席を見に行くお金が無く、夜中にやっている「枝雀寄席」を親に見つからないようにテレビのある部屋に行って、ベージュのモノラルイヤフォンで聞いていました。
高校生になると独演会に行きました。
独演会の一席の枕で話していた桂枝雀さんの言葉をよく思い出します。
「私が高座に座っているだけでお客さんから笑いが起こる」
「なにも話さず私がニコッと微笑んだだけで笑いが起こる」
「そんな笑いを目指してるんです」
当時は枝雀さんが何を伝えようとしているのか
はっきりと理解出来ませんでした。
極めるとはなにか?
当時の枝雀さんと同じぐらいの年齢になった僕にとって、
「モノ作りを極めるとはなにか」
いまだ分かりませんが
師匠の言葉は 今も心に刺さっています。
いつかは何かしらの方法で、桂枝雀さんが愛した落語の楽しさを世の中に発信したいとずっと思っていました。
特に最近はお笑いジャンルの多様化で落語が注目されることが少ないと感じています。
若者に落語に興味を持ってもらうには?
商品会議では若いスタッフに落語への想いがなかなか伝わりませんでしたが、僕より20歳以上若いObayashiさん(ソータ)が落語を好きなことが決め手となって企画が通りました。
うちの会社では発案者の熱量で企画が通ることがよくあります。
カプセルトイ化はそんな落語への愛と子供の頃の記憶から企画がスタートしました。
2021年4月26日、商品会議で企画の承認を得るとその日のうちに上方落語協会にメールを送りました。
すぐに快いお返事を頂きましたが、コロナ禍だったこともあり、大阪の天満橋にある「繁昌亭」に初めてお伺いしたのが6月29日。お伺いして最初に寄席を見学させて頂き、久しぶりに寄席独特の間の空気を感じました。
上方落語協会の事務局の方数名とObayashiさん(ソータ)と僕で、落語というテーマをどのようにカプセルトイに落とし込むかを繁昌亭の2階にある会議室で話し合いました。
とても興味深い話しをたくさんお伺いさせて頂きました。
例えば、高座のめくりに使われる寄席文字は、大入になるように縁起を担いでできるだけ文字の隙間を無くしたり、右肩上がりに書かれています。
またお囃子(おはやし)は引き立てるの意味の【はやす】から出た言葉で、お祭りや歌舞伎・能・寄席などに使われる日本に古くから伝承される音楽やその奏者のことです。それから派生して寄席などで落語家さんが登場する時の音楽を【出囃子】(でばやし)と言います。
言葉や作法の意味を深堀りすると物事に深く興味を持つキッカケになります。
そんな落語をカプセルトイに落とし込むのに重要なことは「どんな商品をお客様が1番欲しがるか」
・落語の象徴と言えば?
・落語に詳しくない人も落語で知っていることは?
・落語を若い人に知って貰うためには?
・落語ファンも喜ぶ商品にするには?
今回の企画目的はカプセルトイを通して、落語に関心が無い人に興味を持ってもらう事です。
ただ僕達ソータが商品開発で常に意識しているのは、「マニアが欲しいと思ってもらえる商品を作らないと一般の人は絶対に興味を示さない」という事です。
月に300アイテム出るカプセルトイの中で、たまたまこの商品を見た人が興味を示すポップ感がありつつ、実際に手に取ってみると落語ファンも納得できる商品の塩梅(あんばい)を見つけるのがとても難しい。
またこれはカプセルトイの可能性を広げるチャレンジでもあります。
既存のカプセルトイユーザーが好む商品だけを企画・開発するのではなく、真逆の尖った発想で導入間口を広げて、新規ユーザーの獲得を目指します。カプセルトイがメディアとして活用される事例を増やしていく事が大切だと考えています。
この初回の打ち合わせの後、実際に商品化する道具の写真を撮るために高座に立たせてもらいました。
師匠達が見た景色を自身の瞳で体感させてもらって、一人感慨深い気持ちになりました。
2021年10月15日、繁昌亭で出囃子の音源収録の日。
客席から録音を見学させて頂きました。
商品の収録時間の設定上、「25秒にしてください」「30秒にしてください」と曲の演奏時間を指定してお願いしたのですが、その通りピッタリの秒数で曲がまとまります。まさに名人芸!
「落語ファンが喜ぶ商品」にする為の重要な要素がこの音源です。師匠方の撮り下ろし演奏のお陰で商品に大きな付加価値がつきました。
この商品の拘りポイントとして、上方落語で使われる「膝隠し」「見台(けんだい)」「座布団」「めくり」がミニチュアジオラマで再現されており、小さなフィギュアなどを座布団の上に乗せてフィギュア合わせができます。
座布団がボタンになっており、押すと噺家さんの代名詞とも言える出囃子(30秒前後)が鳴り出します。(全部で5種類の出囃子があります)
また「膝隠し」には上方落語四天王(笑福亭松鶴・桂米朝・桂文枝・桂春団治)の紋が入っていたり、座布団の色も師匠方のカラーに合わせていることもファンの心をくすぐる仕様になっています。
今回のスポットを当てるのは「上方落語」であると同時に、「出囃子」であり、「お囃子さん」と呼ばれるその演奏者達です。
「お囃子」の成り立ちや使用されている楽器、誰がどんな風に演奏しているかにも興味を持ってもらえたら嬉しいです。
そしてこの商品がもし話題になって第2弾を出す事になった時は、今後の上方落語の発展の為にも若手有望噺家さんの出囃子を商品化したいものです。
2022年 1月13日
SO-TA/ソータ 安藤 こうじ(@kojiando01)
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