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小貝川が氾濫しなければ、我々はアンパンを食することはできなかった

アンパンで歴史に名を残した人物は、50歳目前に起業し、道のりは困難を極めたものの、最後には成功を収めました。AI時代・終身雇用制崩壊の時代の我々にも役立つ教訓を彼は残してくれていると思います。


明治時代の農民が50歳前に起業

明治時代の茨城県南部。利根川の支流の一つである小貝川ちかくで農業を営んでいた木村安兵衛は悩んでいました。

小貝川は厄介な存在でした。暴れ川として知られ、頻繁に洪水を起こします。そのたびに田端や家屋は甚大な損害を被るのです。安兵衛が生活を営んでいた龍ヶ崎地域は特に酷い洪水常襲地帯でした。江戸時代以降、10年強に一度は洪水に見舞われています。安兵衛の時代も例外ではありません。
このままでは、今回の水害をなんとか乗り越えても、すぐに次の洪水が来て努力を台無しにされるかもしれない。この繰り返しでいいのか。

農業に見切りをつけて東京に

安兵衛はついに家業を長男に託し次男と共に東京に出て一旗揚げる決断をします。このとき彼は49歳だったそうです。そこで、西洋から導入されてそれほど日が経っていない新しい食品であったパンに眼を付けたわけです。

職人を見つけ、東京市中に何とか店を出します。しかし、せっかく作ったパンはなかなか売れません。そうこうしているうちに大火事が出て、店は燃えてしまいました。振り出しです。めげずに別の所に店を出します。最初の店よりは順調に成長していったのですが、またもや火事に巻き込まれて店舗焼失。

商売は成った

ふつうなら諦めそうなところですが、木村安兵衛は踏ん張りました。

もうすこしパンを日本人向けに改良して新たなニーズを掘り起こせないものか。探求の末にたどり着いたのが、イースト菌の代わりに「酒種酵母」を用いる製法。これを使い、日本人に馴染がある餡子を入れ、日本人による日本人のためのパンを完成させたのです。

数年後、明治天皇に献上して好評を得たことをきっかけに餡パンは大ブレイク。軍隊でも支給品とされ明治の末には全国に存在を知られるようになりました。


令和の我々がアンパンから得られる教訓とは

理不尽は現代人をも襲う

木村安兵衛と餡パンの足跡をたどると、今とは社会情勢が大きく異なる明治の話とはいえ、現代にも通じる要素はたくさんありそうです。

大河のそばに住んでいなくても、我々は常にいろいろなリスクに晒されています。

順調にいっていたはずの事業や安定していたはずの生活が自然災害によって一瞬にして暗転する。毎年のように台風や豪雨に見舞われ、地震大国でもある日本ではどこでも起こり得る厄災であると、我々はこの正月に思い知らされたばかりです。

そうでなくても社会情勢は超流動的です。バブルと思いきや、次の年はいきなり何とかショックで超氷河期に突入。こんなことが近年も何度も繰り返されました。

何歳になっても遅いということはない

木村安兵衛が東京に出たのが49歳。
明治時代の男性の平均寿命は約44歳でしかありません。ちなみに2015年では87歳だそうです。当時の49歳を現代の寿命で計算すると何歳ぐらいに相当するのでしょうか?

そんな時代に、そんな年で起業して、しかも店舗を失うレベルの試練に見舞われ、5年ぐらいかけて事業を軌道に乗せたのです。

それに対して、令和の世の中において、まだ40歳そこそこの癖にいまさらパソコンなんて覚えられないとか言ってるのはあまりに痛々しすぎますよね。

アイディアの「組み換え」で問題を打開できる

当時の新しい食材だったパンに眼を付けたところが良かったわけですが、それだけではありませんでした。

パンといえばイースト酵母で膨らませるのが当たり前ですが、そうせずに「代用品」を採用しました。イーストが入手困難だったという事情もあったようですが、そこで諦めず別の方策を探ったところが成功の遠因となったわけです。

もちろん、古来からまんじゅうなどに使われて馴染み深かった「餡子」をパンと組み合わせようという発想も良かったわけです。

これを、「イーストを使わないなんてパンではない」などといって切り捨てていたらどうだったでしょうか。餡子なんて邪道だと却下していたら。その後の躍進は無かったに違いないわけです。

新しいものを持ってきただけでなく、別のもの、古いものとの今までにない組み合わせを試してみたことが成功につながったのです。

人間関係が結局ものを言う

しかし、躍進の直接的なきっかけとなったのは、明治天皇への献上であり、それが実現したのは、天皇の側近であり有力者であった山岡鉄舟という人物と木村安兵衛の間に繋がりが出来ていたからでした。

もちろん餡パンそのものの優位性あっての話ですが、最終的にこうした人脈
を活かせたからこそ、困難を乗り越えて商売を軌道に乗せることができたのも確かでしょう。

餡パンの代わりに極めるべきもの

この令和の時代において、木村安兵衛の餡パンの代わりになりうるものといえば、生成AIは最有力候補だと思います。

生成AIはかつてのワープロやインターネットの普及に匹敵するインパクトを持ち、世の中を変えると思いますよ。

生成AIはつい最近登場したツールではありますが、先に行く人はどんどん先に進んでいます。ぼやぼやしている場合ではありません。しかし、がむしゃらに先に行けばいいというものでもないでしょう。インフルエンサーの言っていることをなぞっているだけ、小技のきいたプロンプトをただChatGPTに投げているだけといったレベルでは、そのうち立ちいかなくなるに決まっています。

餡パンにおける「酒種酵母」にあたるものは何なのかを真剣に考えねば。そしてそれをどう応用するのか? さらに重要で難しいのが、如何にして世の中にアピールするかでしょうね(筆者が最も苦手とする分野でもあります)。

おわりに

先に進むことを諦めず、創意工夫を欠かさず、そして数年の苦境を乗り越えるまで粘る。成功のためにはいろいろなものが要りますね。

しかし、誰しも手に入れられるはずのものと信じて取り組むしかありません。最後は気力という所でしょうか。

おまけ

参考文献

小貝川はこんな川

小貝川は、茨城県龍ケ崎市で利根川で合流します。その手前でかなりの距離にわたって鬼怒川と並行して流れています。2015年には鬼怒川の堤防が決壊して住宅地が広範囲に渡って濁流に飲まれました。多くのヘリが住民救出に結集した場面をニュースで見た人も多いでしょう。

小貝川も負けず劣らずの暴れ川で、過去に何度も大水で甚大な被害を出しています。記録が残る1742年以降で14回も堤防が決壊して洪水が発生しているということです。


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