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初期設定の愛 9. LOVE LIKE

 いつごろだったろうか、2月くらいかな、手紙の頻度は減っていた。
月に1-2通だろうか。便せんを綺麗に折りたたんだあの手紙だ。 

『LOVEじゃなくてLIKEだよ。手紙が嫌なら、呼び出して。言葉で伝えてくれてもいいから。』文面は今でも、一字一句覚えている。
女神のいらだちを感じる。もしくは、あきらめか・・・。
 
返事がこない。廊下で会っても逃げ回る姿に業を煮やして、繰り出した変化球か。実はこれが効いた。
 
特に前半部分が胸に刺さった。いや、気に障ったのだ。
女神の愛の賞味期限が切れた。そう感じた。あ゛~、もう終わりだ。
LOVE じゃなくてLIKEだ。これでは、ただの友達じゃないか。
大勢の中の一人に降格、そう感じ絶望した。特別感がまるでない。LIKEがいやだった。これだけは許せなかった。
 
ほんとに子供だ。でもね、当時の僕はそう感じたのだ。しかたがない。
 
おおげさでなく、ほんとに絶望した。
もう挽回はできない。そんな気力もない。
 
そうです、プライドが傷ついたのだ。
 
怖い。
彼女を失うのが怖い。
話しかけるのが怖い。
本当の自分を知られるのが怖い。
 
つまらなくて、何の取柄もないただの田舎の男子だと、ばれるのが怖い。
わかっているのだ、もともと何かを勘違いしているのでないか。過分な評価だ。
  
彼女が愛おしい。
彼女は光っている。
輝いている。
まぶしくて容易には近づけないんだ。怖いんだ。
 
 
いつからだろうか。
 
女神の笑顔が消えた。廊下で見る彼女の顔は能面のようだ。
はにかんだ表情も今はない。 

中学2年春だろうか、だいたいそのころだ。
すべてが変わってしまった。
 

 
あまり考えないようにした。でも考えてしまう。
来る日も来る日も、考えてしまう。
授業は聞いてない。ただそこに座ってる。それだけ。そして、また考える。
来る日も来る日も、また考える。
なぜだろう。どうしてこうなのか。
他の女子とは話せるのに、どうして彼女を避けるのか、いや逃げるのか。どうしてもわからない。他の女子のことは平気でからかえる。結構もてていたのだ。
 
彼女が誰かとニコニコ会話する姿を一度も見たことがない。
 
笑い声を聞いたことがない。
いや、声を聞いたことがない。
 
 2年生、彼女の教室とはずいぶん離れた、別のフロアだった。
廊下ではまったく会わなくなった。なぜだかほっとしている自分、自分らしくいられる気がした。
だんだんと女神のことを考える頻度は減っていた。
Kちゃんとも別のクラスだ。手紙ももう来ない。何事もなく1日が過ぎていく。そんな感じだ。
 
掃除の時間や、移動教室の時、学年集会や全校朝礼のときだけは慎重に行動する。部活の時間も危ない。どの部も終了時間がだいたい同じだからだ。

やっぱり、時々見かける女神に笑顔はない。
私にはもう興味がないようだ。
まるで私が見えていないかのようだ。
 
それでも、彼女は僕の”生きる意味”だ。
それは変わらないと思う。
 
 
10.逃亡 へつづく


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KOJI
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