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MOTを知る特別講座2019 「先端技術開発における外部連携とそのマネジメント」 聴講メモ

○MOTについて
https://school.nikkei.co.jp/special/mot_tit/

○講師
仙石 慎太郎 東京工業大学 准教授
環境・社会理工学院 技術経営専門学位過程・イノベーション科学系
科学技術創生研究院 スマート創薬研究ユニット

○序論
・技術経営専門学位だが、スマート創薬研究ユニットの兼務も行なっている。
・技術経営の理論を体系化するのももちろんだが、それをどう使っていくのか、
 という実践を同じくらい重視している。
・元々東大の医学部でバイオ系の研究。
・博士終了後にマッキンゼーに入社。それがきっかけでコンサルに触れ
 技術経営という分野にも関わってきた。
・基礎研究の自然科学系から、ビジネスよりの社会科学へ真逆の分野にきてしまったが、
 ロジックなどは共通のものがあると感じた。

○先端とは?
・せんたんには2つの意味がある。
 ・尖端(state-of-the-art):一番先である最新という意味合い
 ・尖端(cutting-edge):尖っているもの
 →ここでは両方の意味が含まれる。
  せんたんとは一番先であり尖っているもの。
・イノベーションは簡単に「非常識を常識にする」という人もいれば
 「柔軟に広く解釈する」という人もいる。
 →どちらも正しい。
 →いかにそれを金にするか、経常利益化するか、という観点も外せない。
  お金の出してが利益を得られる、バランスするような結果が得られる、
  というのがイノベーションの本質と考える。
 →イノベーション=革新+儲ける

・なぜ日本はバイオ分野の発明に優れ、イノベーションに劣るのか?
 ・日本人がG-CSFとい因子を発見
  →お金にしたのは北米の企業
 ・1980’s ゲノムを自動で読み込む技術が発達。(ゲノムシーケンシャー)
  最初は日立系メーカーがプロトタイプを発明
  →結果的には北米の企業が活用し、日本企業は敗北。
 ・発見した人間が付随する価値を得られないのが問題と感じた。
 ・IPS細胞(2006):山中先生が発見→?
  ・お金の出しである日本の企業、政府は価値を得られるのか?
  →過去の対戦成績は良くない、今回はどうか?
  →イノベーションを完結するシナリオもあれば、
   これまで通りイノベーションは完結せず、儲けは他国というシナリオもあり得る。

・幹細胞
 ・人間を構成する細胞の一種。増殖能(proliferation)と分化能(differntiation)を有する細胞
 ・全能性(受精卵)
  →人間は1つの細胞(受精卵)から成長してできる。つまり受精卵は全てを含んでいる。
 ・ES細胞
  →人の受精卵から分離して得られた、発達のごく初期のもの。
   体外受精の際に使われない細胞から使うので、産業的に使えるが倫理的な問題も残っている
 ・IPS細胞
  →人の既にある細胞から分化を遡って幹細胞を生成できる。
 ・ES/iPS含めて再生医療の研究に期待されている。
  ・どうやってその細胞が髪の毛になるのか?といったメカニズムの研究に使われる。
  ・薬の試験に人の細胞を模して使え、創薬研究の速度が向上する。
  ・ハイブリッド:機械と人を合わせて一つのシステムとして実現する。細胞を部品として扱う。
 ・Technology Platform
  →1つのための技術だけではなく、様々なことに応用可能な技術である。
   iPSはその点が評価されている。

・幹細胞の研究開発の国別比較(US, CN, JP, UK)
 ・論文:研究の成果
 ・特許:開発の成果
 ・臨床開発:人の試験
 →日本は開発に優位性があるが、臨床は遥かに少ない。
 →儲けることができない、につながる。訴求力がある。
・この危機感から統合的イノベーションマネジメントの研究がスタートした。
・日本の地域的特性も踏まえて、イノベーションを起こす方法論を確立する。
・2つの方法に立脚して新しい技術動向を見つつ、産業特性に根ざした形でビジネス化する
(1) サイエンス・リンケージ
 →論文や特許の情報を使うと面白い
(2) 地域・産業クラスター
 →地域や産業の特性を比較の観点からあぶり出す。

○サイエンス・リンケージ
・計量書誌学とは?
 ・過去の文献を統合したデータベースとして運用すると多くの価値がある
  その方法論を研究するもの。
 ・ビッグデータの一部として利用
 ・論文、特許、技術的・科学的な文献
  →それ以外のニュースやSNSも対象となることもある。

・いくつか方法論が確立されている
 ・生産性分析:論文数、雑誌分布
 ・引用分析:引用をたどり、どの研究がどこに波及したのかを調べる。 
  →芳鐘さんの2009年の論文によくまとまっている(Webで閲覧可)
 ・論文、特許がどう使われたかに着目すると色々な指数を作れる
 ・協力分析:
  →複数人で論文を書いた場合。同じ部署だったら良いが、
   よその部署、よその会社で協力したのなら、イノベーションを起こすためには
   そのような情報が必要だったのか、という分析の有力な手がかりとなる。
 ・共起頻度分析:一緒に出てくるもの
 ・例)「桜」と「花見」という言葉は一緒に出てくることが多い。これは普通。
   →「桜」と「プール」が一緒に出てきたら?
    もしこのような現象があれば新しい発見のきっかけがあるかもしれない。
・学術論文の構成要素
 ・タイトル、文献番号、文献種類、雑誌情報、
  著者情報、要旨、本文、図表、謝辞、参考文献・・・
 ・本文中にはハイパーリンクがあり、引用を意味している。
  引用された論文はこの研究に役に立ったとのこと。
・特許の構成要素
 ・基本的には論文と同じ。
 ・発明者と出願者は必ずしも同じじゃない。
  よくあるのは発明者は個人だが出願者は企業。
 ・引用の関係を追えば同じような分析が可能。

・引用分析
 ・引用・被引用の関係性と直接・間接の関係性により、共引用、直接引用、書誌結合の3つの方法論が形成される。
 ・共引用:この仕事がどういった仕事を共に引用しているか?
   全く関係なかった2つの研究が、新しい研究で両方使われた。
   新しいビジネスから過去のものを遡ることができる。
   過去のものが未来のものに使われたことによって、初めて関係性がわかる。
   →過去の関係性、古いものを見るアプローチ。
   →今の文献を特定できれば、引用はせいぜい20くらいなのでスコープを特定し、
    分析がしやすい。
   →共引用を使うと色んなことがわかる、というのが今日一番伝えたいこと。
 ・被引用構造
   ・AとBを共に引用している(共引用)論文が1つであれば、あまり関係はない
   ・AとBを共に引用する論文が複数出てくると、何か新たな体系(R)の出現の鍵となった可能性がある?
   →誰がどういった文献を調べているかを研究すると新しい学問のトレンドを調べることができる
    タイムラグはあるが。

・幹細胞関連研究の近年の状況
 ・iPS細胞は平均の引用数が高く、注目されていることがわかる。
 ・国別で見ると、幹細胞を一番注目しているのはスイス、オランダ。
  成長率が大きいのはイランやインド。
  日本は残念ながら数も質も伸びていない。この時点で幹細胞研究はあまり結果出てない、
 ・iPS細胞も平均以下。山中先生の研究が目立つが、国としては結果が出てない。
  一番伸びているのはイスラエル。キリスト教ではないので、受精卵の倫理的問題がない。
  →ES細胞の研究をどんどんやっている。
   イスラエルはアメリカと仲が良いので、アメリカでできない研究をイスラエルでやっている。
  →文献情報がどう使われるかを端的に示す例。

・大規模文献データベースを用いた評価指標の設計と分析
 PPMマトリクスに乗っけて分析しようとした
  市場成長率と相対的マーケットシェアの2軸で分析。
  成長率は論文の数で測る。マーケットシェアは国別、大学などで読み替えて見る。
 ・幹細胞研究について大学別で実際にマッピング。
  ハーバード大、京都大、ウィスコンシン州立大、エジンバラ大。
  →論文数は圧倒的にハーバードが多い。
   かつ、これまでにないような新興の研究が多い。
   かつ、花形に集中している。やはりハーバードは強いことがわかる。
  →京大は頑張っているが、やや金のなる木にいる。
   成長率が低いので、将来にリスクあり。
  →ウィスコンシンはシェアは少ないが成長率が高い市場に置いている。
  →エジンバラ大は負け犬が多い。が、尖った研究(花形)を一部持っている。
  →みなさんだったらどこと組むか?
   結論から言ったらエジンバラと組もうという話になった。
   ハーバードと組んだら食われる。
   ウィスコンシンは対立する特許があったため、知財室の判断で組むことはできなかった。
 ・国別の同じような研究もある。
・サイエンスリンケージの弱点はタイムラグがあること。
 文献が公開されてレビューを受けるまで1年以上ラグがあり、
 本当に最新の研究はわからない。タイムラグがあることに注意する必要がある。

・エジンバラ大との連携との実践
 ・京大とエジンバラ大と協定を結んでいたので友好な関係であった。
 ・どこと組むか? 花形の尖った分野。
  化学の分野で研究している。物質と細胞の融合という分野を扱っている
 ・問題児
  →衣料系も研究
 ・最初にやったこと
  →偉い人に話してもらおう。エジンバラ大、京大のトップ、山中先生などでシンポジウム実施。
   お互いを理解するため、研究を紹介しあい、酒飲んで交流した。
  →その後どうなったか? 東工大に転籍してしまったので詳しく追えていないが・・・
   後任に聞くとぼちぼちのようだ。ハッピーエンドではないが、収益のところまで少しはできている。

○地域・産業クラスター
・コンソーシアムの形成
 ・複数の企業・組織、個人による連携
 ・産学公の連携を推進する施策としてコンソーシアムが形成される。
・日本では半導体、自動車などでは官主導で強みを発揮していた。
 →フリーマンが日本の強みはコンソーシアムにあると分析した。
 →時代が過ぎ、オープンイノーべションの時代には新しいコンソーシアムが必要。
  オープン&クローズ戦略などが提唱されている。
・NEDOのケース
 ・コンソーシアムに着眼していくつかを観察、事例研究した。
  産業応用考察を行なった。
 ・6年間にわたり実施。非常に多くの企業、大学が関わっている。

・イノベーションの周辺産業は経常利益化しやすい。
 結果に依存しない、ものが動けばお金が落ちる。
・元々シリコンバレーが注目されたのは金が出たから。それで人が集まった。
 →実際に金が出て儲かった人はシリコンバレーに残ってない。
  今でも名前が残っているのは金を採掘する人をサポートした人たち。
  例) 鉄道のビジネスを立ち上げた、採掘者にジーンズを提供した人(リーバイス)
    周辺産業の人たち。

・再生医療の研究でも周辺産業をコンソーシアム型で手堅く固めている。
 ・リプロセル社(日本)が上場時に1700億、世界含めてもIPOの最高記録。
  →コンソーシアムの成果なのか、たまたま時代が良かったのか、現在分析を実施中。
 ・大企業を埋める存在としてベンチャー起業も示唆されている。
  ベンチャー企業の育成という観点では、投資に基づくイノベーションは短期で起こせる。
  ベンチャー起業をいかに関与させるか、ということを深掘りしている。
 ・人財育成:そこに入ったこと自体がその人にとって価値となる。
 ・技術標準の策定

・柴又運輸の例)
 ・元々輸送業、アパレル製品を運んでいた。振動を抑制して免震して運ぶ技術を持っていた
  →創薬分野、再生医療における細胞の移動に参入している(Carry 細胞)

・コンソーシアム経営の条件(注意点)
 ・リーダーシップ
  大目的は共有しつつも、背景や意向が少しずつ異なる複数の参加者の統括
 ・戦略立案ユニット
  戦略をきちっと立案し、組織的に対応できること
 ・アントレプレナーシップ
  ベンチャー企業のリスク/不確実性の許容と実践
  外部資金(リスクマネー)の獲得
 ・プロセス・システム
  明快な合意形成のための、組織形態・運営プロセス設計と明文化
  →不明瞭な意思決定が行われるとモチベーション低下、疑心暗鬼が生まれる。
   ビジネスといっても現場の担当者の信頼関係が作られないと進まない。
 ・風土・文化
  参加者間のイコール・パートナーシップの精神を育む
  上下関係ではなく、対等な関係。
  バリューチェーンの上流・下流は優劣ではない。

○ビジネス・モデリング
・KING Skyfront:首都圏における新たなバイオテック産業クラスター
 ・川崎市の羽田空港に近いに殿町(KING)というところに再生医療プロジェクトが集約。
  京大の研究室も存在する。
 ・ナノ医療やそれをサポートする周辺研究、環境研究もある。
 ・慶應大はキャンパスも立てている。
・コンソーシアムを構成するにあたり、地域性も鑑みて進めている。

○人財育成
・研修とかというよりも現場の担当者同士の交流・議論などを通して成長していく。

○まとめ
・発明が行われたところでイノベーションを完結できるか
・まだまだ遠いというのが現状。一番の理由はエコシステム。
 生態系の理解が足りていないかった。
・日本的なアプローチとして、まずは地域や産業コンテクストに立脚
・大企業の参画
・草創期(ベンチャー企業)の支援の強化
・これまでは経験則に頼りがちだったイノベーションの検討に、科学的なアプローチを導入する。
・人文社会科学と幹細胞科学の研究者が密接に協力する。
・世界の動向と日本の強み・弱みを正確に把握する
 ・日本のものづくりの強みが発揮できる製品・サービス分野の開拓、日本の環境に適した分野に投資する。

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