MOTを知る特別講座2019 「社会・経済のサービス化とイノベーション」 聴講メモ
○MOTについて
https://school.nikkei.co.jp/special/mot_tit/
○講師
東京工業大学大学院 環境・社会理工学院
イノベーション科学系 教授 日高一義
○序論
・50歳までIBMの研究所にいて、その後大学に移り10年。
アメリカの研究所にもいたが、その時の知識・スキルが今も使っている
→サービスイノベーションという分野。
経緯上IBMの話が出てくる。
・副題はLogic for Servitization=サービス化の論理
→本日の趣旨。
・MBAなどビジネス系の研修はケースの話が多い
→大学教員よりビジネスマンの方が詳しかったりする
今は情報収集は誰でもできる。
→その中の論理を探せることが大学教員のメリット
知識よりも考え方、論理構成がビジネスマンの基礎として活きると思う。
そういう観点で話していこうと思う。
・Society for Serviceology サービス学会
・Service Innovation, Service Science
→サービスを科学としてみる人が増えてきている。
○Servitization = サービス化とは
・「モノからコトへ」「所有から利用へ」
→これらのUnderlying Logic = 背後の論理について話す。
・Ian Milesは「Innovation in Service」と「Service Innovatinon」は違うという。
・前者はプロダクトとプロセスのイノベーション
・後者は新しいサービスの想像に関わっており、
全てのセクター(1次産業、2次産業含め)を含む。
・年代別に論文を分析し、どの言葉が何回登場するかを調べた。
→2005年にService innovationが圧倒的に増えた。
→INNOVATE AMERICA = アメリカの競争力評議会
アメリカのトップ企業や大学総長など名だたる代表者がワークショップを行い、
そのレポートをまとめた。
→この頃、アメリカはアジアの台頭を気にしていた。このままでは負けてしまうのでは?
ワークショップを行い「どこに投資するか?」「どういう人財を育てるか?」を議論。
→無料でPDFをダウンロードできる。
この中で「Service science」という言葉が出てきた。
Service scienceは21世紀の革新に答えを与えると書かれた。
・What is Innovation?
・私なりの定義 = Growth(成長)の話。
成長=時間とともに増えていくこと
リニアに伸びるものもあれば、2次微分が+/-のものがある。
大体はこれらの組み合わせとなり、成長のモデルと捉える。
・あるアプローチの成長が止まると、次の成長をつなげれば良い。
この時、一時はパフォーマンスが下がり、その後成長するモデルもある。
不連続な成長がイノベーションと言われる→昔の話。
→不連続な点がパフォーマンスの低下ではなく向上となる。
どのようにジャンプするか?
知恵を持ってシステマチックにできないか?
= Service science
○サービスサイエンスの出現
・IBMの話
・IBM Research = 基礎研究のホームページ。全社員の1%が基礎研究の割合
・一番上から化学、コンピュータサイエンス、材料化学、数学・・・
下から2番目にService Scienceがある
→当時 IBMは物理などと同じようにService Scienceが大事だと考え
組織も作っていた。
→IBMは10年に一度全部の基礎研究PJをレビューし評価をつける。
Aは10億円相当の価値があり、ボーナスも上がりクビにならない。
BCDはダメということだがAの上がある。
OutStanding:100億円の価値。さらにその上があり、
Extra:1000億円、ノーベル賞など。
→IBM研究員は20%は自分の研究以外をやりなさいと言われる。
主にブレインストーミングを延々とやっている
→次のネタをやっている。
自分の研究分野の延長でやっていると次のステージにならない。
→What’s next Big Thing?
→「サービスを科学する」というのが出てきた(2005年ごろ)
・IBMの売り上げ
→近年はHWは1割。SWとサービスが4割ずつくらい。
→E評価の基礎研究はHWがほとんど。SWが少し、サービスはない。
CEOは「基礎研究のビジネス貢献がない、人を減らそう」と考える
→親会社の事業ポートフォリオが変われば基礎研究もかわらなければならない。
・Computer ScienceはComputerがあって生まれた。
まずは数学者、次に電気工学者、3番目に哲学者にて始まった。
・Service→?
Serviceを売るために体系的な知見がいる
→サービスの世界に完全な理解を与えるような異なった知見がいる。
・深く理解するためには分割していく。
Computerも同じ→SWとHW、SWはCPU, Display, ・・・
細分化したことでcomputer scienceが育った。
・serivceはどう分けていくか? 見えないので難しい。
→cumputerは分割された先が大事だったが、
サービス科学ではintegration pointが大事なのでは?
・サービスサイエンスとは?
①Science for better service
②Science for new service
後者の方が難しく、それこそイノベーション
・情報産業やIBMなどではなく、もっと一般のサービスに対して体系的に理解するのが大事では?
・「モノ」のイノベーションは世の中はまず基礎研究を行う。
100個やると10個くらい芽が出てくる。それをサービス開発に繋げていく。
・「サービス」はどうするか?
サービスの研究というものはない。
・これまで顕著な発明は製造業に限られ、創造性という点においてサービスはほとんど取り残されてきた。
現場で色々やっているが、それが体系的な知識に昇華されていない。
それがサービスサイエンスの背景
○サービスサイエンスの発展
・200年間の就労人口の割合を国別で可視化。
→どの国も第3次産業の割合が増えている。
→数字として実態は世の中を引っ張っているのは「サービス」
・先進国のアメリカ、日本、ドイツは農業→製造業→サービスと広がるが、
新興国は農業→サービスといきなり推移する。
・アメリカは農業の就労人口は5%。
人口は増えているのに農業人口は減っている
→いかに農業の生産性が高まっているかが分かる。
・日本のGDPは7割以上がサービス業。2割が製造業。1割が農業。
・中小企業の比率は99.7%。製造業でもサービス産業でも比率は変わらない。
・サービスの生産性の停滞
・なぜサービス産業が発展したのか(しているのか)
・個人所得の増加
・ニンゲルの法則:教育、医療、旅行、外食
・マズロー:生理的<安全<社会的<評価<自己実現
・社会環境の変化
・女性の社会進出:レストラン、日常生活、託児
・高齢化:老人医療、ホーム、シルバー産業
・生活の複雑化:弁護士、FC
・テクノロジーの発展
・コンピュータ:労働効率の向上、サービスの提供方法の革新
・ソフトウェア:多様性、個別化
・通信:コミュニケーション
・企業のビジネストランスフォーメーション
・ビジネス・プロセスの文化と選択・集中・外注
→高度成長期には企業は多角化したが、
バブル崩壊後は得意分野に集中。選択しないものはアウトソーシング。
・プロデューサー・サービスの発展
○サービスとは何か?
・ここからが本番。過去の研究から話すけどちょっと聞いてほしい。
過去の話を聞くことで考え方が分かる。Servitizationの意味がわかる。
・日本標準産業分類ではサービス業は(その他)の扱い
・もっと細かく見る。レストランはサービス業であるが。
商品開発、調理、集客、顧客接遇と分けられる。
これらを直感で製造プロセスとサービスプロセスに分けてみる。
サービスは目に見えるものを作っていないと言える。
・商品開発、調理は製造プロセス
集客、顧客接遇はサービスプロセス
→製造とサービスが組み合わさっている。
・自動車メーカーは研究開発、設計、組み立ては製造プロセス
調達、搬送、保管、販売などはサービスプロセス。
→製造業でありながらサービスプロセスをたくさん持っている。
・企業は「製造プロセス」「サービスプロセス」を持っている。
○サービス研究の変遷に見る「サービス化」
・サービスの定義
・1980年代から色々な議論があった。
・顧客の問題に対する解決策として提供される一連の行為
・成果物が製品あるいは構造物でない全ての経済活動
→当時はコンセンサスが取れなかった。
サービスの変遷(1) IHIP
・モノ比べたサービスの特徴は4つある
・無形成(Intangibility)
提供されるものが手に触れることができない。経済価値が生産物よりも曖昧。
日本の旅館ビジネス。価格が高いが何故かリピーターが多い。
食べ物もそうだが、メインは「接客」。そこにいくら払うのかは難しい。
日本の方が対人的なホスピタリティは高いがその価値をどう測るか?
・教育の価値
みなさんがこれを元に社会に価値を還元する。これは見えにくい。
アウトプットを数値化しにくい。提供されるものが手に触れることができない。
経済価値が生産物よりもあいまい
・同時性(Inseparability = Simultaneity)
生産と消費が同時に起こる。
講演であれば「話す」と「聞く」は時間的、空間的に同時である。
もし、この公園をビデオに撮って遠隔に流せば空間的同時性は解決できるかもしれない。
→生産と消費は同時ということは、消費されるもののチェックができない
練習したところで本番で同じにはできない。
製造であればチェックができる。
→医療であれば患者が自分の症状を言わなければ適切な処置はできない。
受動者のケイパビリティも求められる。インタラクティブなモデルからくる問題。
・異質性(Heterogeneity)
同じサービスでも提供する人、場所、時間が違えば、サービスの効果は変わる。
サービスはその場かぎりである。
・消滅性(Perishability)
今日の空室は明日売ることはできない。余ったものを未来に撮っておけない
→サービスの提供能力が消滅してしまう。
在庫不能 -> 需要の変動をモノよりうける
サービスの変遷(2) Unified Service Theory
・統一サービス理論(難しくてわかりづらい)
サービスは生産プロセスであり、その中で顧客は、それぞれその顧客に対する生産単位のために
一つかそれ以上の入力要素を供給する
→よくわからない
・
Supplier→(Inputs)→Production Process→(Outputs)→Customer
→旧来のものづくりのモデル
・サービスの場合
Supplier→(Inputs)→Production Process→(Outputs)→Customer
これにCustomerがProduction ProcessにInputを与える。
99%の人がFBと思うがFBではない。
Customerのinputが必要。
生産プロセスに自分自身を投入するからOutputをもらえる。
鈴木さんが来ないと鈴木さんはOutputをもらえない。
・歯医者:自分の悪い歯をinputするから良い歯がOutputされる
・クリーニング:自分の汚れた服をinputするから綺麗な服がoutputされる。
inputが最初に必要だからFBではない。
・inputは3種類ある
・自分自身
・自分の持ち物
・自分の情報
・サービスはProduction Processである。Outputではない。
サービスは生産プロセスである。
・ビジネスサイドはSupplierとProduction Processは持っている。
しかしこれだけをいくらやっても良くならない。
質はCustomerのinputで決まるから。
よって顧客のことも考えなければいけない。
サービスの変遷(3) →省略
サービスの変遷(4) Service Dominat Logic(SDL)
・地球は基本的にアンバランス
人によって能力が違う。場所によって取れるものが違う
→お互いに補完し合う。交換経済は世の中の原理。
・何を交換するのか? 2種類ある。
・野菜と魚の交換(モノ)
・野菜の作り方と魚の取り方(知識・スキル)
・経済=交換経済(Exchange Economy)
交換 → 交換する対象が必要
・経済のもうひとつのモデルとして変換がある
Resources → (Something) → Effect
→Resouceには2種類ある
Operand Resouces(作用される資源)
→見える資源:
Operant Resources(作用する資源)
→見えない資源:人の能力
→昔はモノが大事だった。(Dominant factor)
いかに土地を持っているか、鉄鋼を持っているが。
→それが知識やスキルに移ってきている
→モノの交換経済からコンピテンシーの交換経済へと
移っている。
・モノの資源が投資がいる = 企業しか持てない。
・知識やスキル = 人間なら誰でも持てる。お客様も持てる
→Operant Resourcesへの顧客参加。
顧客の資源化が起こる。
・みなさんサービスのことを「モノからコトへ」と言っている。
経済には「交換」と「変換」が大事。
その資源がモノから知識・スキルに変わってきている。
・分配
モノ:物流
知識・スキル:ICT
・新しい資源(知識・スキル)、Operant Resouceへの顧客参加、価値の創造
→これらが経済・社会のサービス化
・コピーできない価値
・即時性
・パーソナライズ
・解釈
・信頼性
・アクセス可能性
・実体化
・支援者
・発見可能性
・価値には2種類ある
・そのものの価値
・そのものを提供しようと思った時に発生する価値(生成的な価値)
○まとめ
・サービス研究の変遷は、サービスをどのように考えるかのパラダイムの変遷
- IHIP:
- SDL:世の中はサービスが基本
ものは”distribution mechanism”
- UST:世の中はプロダクションプロセスで構成。
顧客入力の有無でに分割
- 原始サービス:人間社会の基本機能
→人間が生まれる前からサービスの概念はあった(本日は省略)
・これらはいずれもパラダイム。モノの見方。
・サービス科学の一つの重要な役割:「今後の社会・経済の再設計に有効に働くパラダイムは何か?」
・これからの日本に向けて
日本サービス大賞の運営組織が「サービス生産性協議会」というものをやった。
スマートエコノミーを提唱。
日本は生産年齢人口(15-64歳)が減少。
→日本の人口減少よりも問題。
30年後は人口16%減に対し、生産年齢事項は28%減少。
・日本の労働者の質は高いがサービス業の最低賃金は低い。
→経営者は質の高いサービスを安くやっているということで上手くやっている。
・日本のサービス産業の生産性は米国の半分
・利益と配当は増えている = 企業と株主は儲かっている。
給与と実物投資は横ばい = 従業員は儲からない → 購買力は伸びない。
・日本経済の本質的問題は「生産年齢人口の減少。
・日本には供給構造改革が欠如している。行き過ぎた企業保護政策などを見直し
産業のダイナミズムを促す
・ITを活用したイノベーション競争に日本は遅れをとっている。
・日本の研究開発費は製造業79%、サービス業21%
→アメリカは57%、EUは46%。日本はもっとサービス業への投資が必要では?
・「スマートエコノミーの実現を目指して」と検索すると無料でPDFを閲覧できるので
ぜひ読んでほしい。