うつくしいひと 第一回

小磯通信では「うつくしいひと」と題して、日常で見かけた美しい人について、自由に文章を書いてみようと思います。不定期でやります。

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年末、帰省中のショッピングモール内のとあるアパレル店、レジにて。私とレジ台越しに対した彼女は、終始笑顔であった。髪は茶髪で肩にかからないくらいのセミロング。ネイビーのVネックのトップスにチェックのスカートというコーディネートは、上下で冬らしい、深い色味であった。歳は二十代後半、もしくは三十前後であろうか。特段の美人というわけでは決してなかったが、少し落ち着いた雰囲気とメイク、大人らしいファッションはとても素敵であった。

不思議な笑顔。これは私が感じた印象である。にこやかで明るい笑顔で、口調は丁寧だが明るくカジュアルである。しかし彼女は真には笑っていないように感じた。それがなぜであるかわからない。見た目にも声のトーンにも彼女はしっかりと笑っているのだが。そもそも接客スマイルとは、客に対して店員として接する態度の一つなので、彼女があくまで仕事の一つと割り切って、自分の心を噛み殺し、顔の表面に笑いを張り付けていただけだから、漏れてきた本心を私が感じとったのであろうか。しかし支払いを終えて店を出るとき、私を待っていた連れは、私が支払いをしているときの彼女の笑顔をたいそう評価していたので、傍目には違和感のない、むしろ良い笑顔だったである。

ミステリアス。しかし真に感情の見えない彼女の笑顔も、それはそれで魅力的であった。不思議な笑顔と言えば思い出すのはレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」である。専門外なので詳しくは知らないのだが、「モナ・リザ」の女性の笑顔というのは片側の口角しか上がっておらず、もう片側は上がっていないため、笑っているのに真に笑っていないような、どこか不思議な笑みに見えるのだと聞いたことがある。「モナ・リザ」の女性は、不思議なその笑みで何世紀にもかけて世界中から高い評価を受けている。美しい女性と不思議な笑みは、もしかしたら結びつく要素なのかもしれない。

今思うと、年末の夕方まで店に出づっぱりで疲れていたのかもしれない。もしそうなら、そんな時間まで客に評価されるほどの笑顔をしていることは天晴れである。さすがプロといったところだ。仕事が終わったら彼女も帰省したりするのだろうか。実家は都会か、いやはやそれとも四国や九州の田舎から出て来ているのだろうか。もしくは年始は元旦から仕事があったらば、帰省はしないであろう。そうすると仕事終わりは仲間と飲みにでも行くのだろうか。一杯目にはビールだろうか。それとも一人で焼酎をチビチビやっているというのもおもしろい。酔い潰れても彼女はあくまで上品であって欲しいなァ。

店を出ると、すっかり日は落ちて辺りは暗くなっていたが、まだまだ客足は絶えない様子だった。もう一踏ん張り頑張れと思いながら、賑わう館内を後にした。

風がとても冷たかった。自販機でコーヒーを買った。蓋を開けると湯気が空に上がっていったので、つられて空を見上げた。

年が暮れようとしていた。

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