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ドイツの新しい家族のカタチ - 離婚や再婚でツギハギになった家族 = パッチワークファミリー Vol.1 ステファンとラルフ


パッチワークファミリー / ステファンとラルフ

パッチワークファミリーってなに?

昨今欧米では「パッチワークファミリー」という、多様な家族のカタチを肯定する言葉と機運があります。 「パッチワークファミリー」とは子供のいる両親が離婚または別居して、その後別のパートナーができてその間でまた子供をもうけ、さらにその2番目以降のパートナーにも既に子供がいて、というパッチワークのように継ぎはぎされた複雑な家族構成のことを指したもので、ステップファミリーとも言います。

現代ドイツ人の姿

私はドイツの港街ハンブルグでグラフィックデザイナーとして暮らすいそがいこういちろうと申します。自身の周りの友人や仕事仲間などにもそのような家族のカタチを持つ人たちがたくさんいて、そのような状況を前向きに捉えて生きる現代ドイツ人の姿を皆様にご紹介したいと思います。

ステファンとラルフ

今日久しぶりに昼食を一緒にとった友達のステファン(ジャーナリスト50代)から嬉しいニュースを聞きました。彼はかわいい感じの背の高い男性で、長く付き合っていたボーイフレンドのラルフ(50代出版社勤務)と先日結婚したということです。おめでとう!

ドイツの同性婚の合法化は遅かった

意外にもドイツで同性婚が合法化されたのは割と最近のことで、2017年のアンゲラメルケル政権時代です。これは西ヨーロッパの中では遅い方で、隣国オランダでは2001年(これは世界初)でしたが、ドイツにおいても同2001年に、生活パートナーシップ(Lebenspartnerschaft)の制度が導入されています。

生活パートナーシップとは、婚姻関係にないパートナーを保護する制度ですが、それについての説明は少し話がずれてしまいますので次の機会にしようと思いますが、それまでにも実質的には同性カップルの同居は珍しいことではなく、現代ドイツの都市部に住んでいると友人や家族や親戚、クラスメートや同僚などに必ずそのような境遇の人がいます。

しかしこの合法化によって、同性カップルは結婚に伴う権利を完全に認められ、子供を養子にすることもできることになりました。財産を持つ場合の分与も、前出の生活パートナーシップよりもさらに踏み込んだ権利を得ることが出来ました。

ちなみに世界中で同性婚を合法化している国々は、欧州、南米、北米を中心に29ヵ国で、アジア圏では唯一台湾だけということです。

ドイツで結婚の持つ意味

ところで現代のドイツでの婚外子の数は多く、成人男性と成人女性が小さな子供を連れていても、彼らが結婚していると自動的には思いません。特に私が住むハンブルグのような大都会ではそれが顕著で、むしろ結婚していない「生活パートナーシップ」の関係である前提で接します。その後彼らが婚姻関係にあることがわかったら「あ、そうなんだね」と思いますし、婚姻関係になかったとしてもそれを気にする人はいません。

その背景には端的に言って、子供を産むのに結婚する必要がなくなった、ということがあるのではないでしょうか。既婚であってもなくても社会保障に分け隔てはなく、出産にまつわる費用、子育てに必要な費用も18歳まで全て無料、育児費(Kindergeld)が18歳まで国から一律に、どんな境遇の子供でも分け隔てなく支払われます。女性の社会進出(この言葉自体がドイツではすでに死語ですが)が進み、一人でも子育てできる環境があるということが原因にあるでしょう。

そんな背景があることから、周りの人が結婚することになった時ちょっと意地悪な質問をよくしました。それは「どうして結婚したの?」というもので、仲の良い方にしか言わない方がいい失礼な質問ではありますが、結婚しなくても何も困らない社会で結婚するのは、それだけパートナーを愛しているからだよね?という意味を込めています。ちょっと皮肉屋のドイツ人なら、節税のためだよ、と返答します。

ステファン、どうして結婚したの?

話をステファンとラルフに戻しますと、私はやはりその質問を仲良くしてくれているステファンにしました。「どうして結婚したの?」

前記したように彼らの結婚を祝福した上でのちょっとしたイジりのようなもので、それを受けてステファンは「彼を愛しているからさ」と無難に答えました。もしかしたら彼らの年齢(50代)から病気や死別することになった時の介護や法的手続き、最近バルト海の近くに二人で購入した小さな別荘や車などの共有財産などの背景が影響しているのかもしれませんが、愛という言葉の前には全ての現実的で事務的な理由は不問にされてしまいます。

ラルフの前妻と息子

ところでラルフには子供がいます。つまり彼はステファンに会う前までヘテロセクシュアル(異性愛者)で子供ももうけていました。彼の子供はもう成人していて、彼らの結婚式に参加して祝福をあげたということです。その子供の母親、つまり前妻も彼らの結婚式に参加したということはドイツ的には自然なことですが、もしかしたら日本では驚かれるかもしれません。前夫が60代を前に男性と結婚し、その結婚式に前妻として参加する、という話は日本ではあまり聞かない話です。

その子供とステファンの関係はどうなるのでしょう? 法的にはまだまだ未整備なところがあるようですが彼らの場合、子供が成人しているので同居することもなく、ゆるい家族のカタチとでも形容するしかないのですが、他人ではないけどステファンにとっては夫の子供、という関係以上でも以下でもないということです。

連れ子と新しいパートナーの関係

では子供が成人していない、まだ保護が必要な場合のパッチワークファミリー/つぎはぎ家族はどうでしょう。例えば大事な家族イベント、子どもの誕生日やクリスマスなどの時はややこしくて大変、クリスマスの前後に前日にお父さんとその新しい家族、次の日にお母さんとその新しい家族と過ごすなどどの調整が必要で面倒です。

お父さんやお母さんの新しいパートナーは名前で呼び、お父さん、お母さんとは呼ばないし、新しいパートナーにもその自覚はありません。これは子供のいるパートナーと家族になるハードルの高さを取り払っています。こんな家族のカタチが現代のドイツの社会では普通にあり、法的にも保護されているので自然にニュートラルに社会が捉えるようになりました。

まとめ

これらのお話から見えることは、現代ドイツが現実に即した改正をし、国民の幸せを守っているということです。そして国民も、他人の幸せを守ることは引いては自分の幸せも守られるということを意識しているということではないでしょうか?

ゲイや婚外子があなたのそばにいても、あなたの生活は何も変わりません。彼らを受け入れることは、彼らの幸せを守ることであり、引いては私たちの社会を住みやすくすることになると、ドイツの社会を見て思います。

ここまで読み進めていただいて、ありがとうございました。他にもパッチワークファミリーの知り合いには事欠かないので、気が向いたらまた違う現代ドイツの家族のカタチをご紹介するかもしれません。

ごきげんよう。

パッチワークファミリーの絵本

2022年絵本コンペで受賞し、2023年出版の拙著「パッチワークファミリー / 時がたつと...」をご紹介します。

物事は常に変わり続けているから、家族のカタチも変わっていくのは自然なこと 。 小さな女の子の視点から、日常の時間の流れの中にある美しさや楽しさ、そして悲しさや切なさを丁寧に見つけていく。少女の成長とともに物語が進んでいき、彼女を取り巻く家族や環境にも変化が訪れる。そして時間が経つことでそれらを受け入れていく少女。そして物語の最後に彼女が得たものは?

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