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海。

隣のクラスの蒼ちゃん。

蒼ちゃんはね、海に殺されたんだよ。
蝕まれて、犯されて、汚されて。

誰も知らないまま涙を乾かして。
そして静かに眠る事を選んだんだ。

蒼ちゃん、あおちゃん。
蒼ちゃんは、強くて優しくて、脆い子だった。

ガラス細工のような蒼ちゃんにとって、海は鋭くて、冷たかった。

僕と蒼ちゃんは、唯一無二だった。

普段は遠い存在だけど、二人になればたちまち恋人のようにお互いの愛を確かめあった。

性行為なんてはしたないものじゃなくて、もっと純粋で綺麗で、特別な愛の確認。

二人で並んで座って、手に触れて、目を合わせて、ゆっくり話をして、話すのに疲れたら、少しだけ一緒に眠って。

目が覚めたら、お互いの服装を綺麗に整えて、そしてまた冷たい海に泳ぎ出す。

それはたしかに鑑賞も、干渉もされない僕たちの世界だった。
唯一無二の僕たちだった。

本音をぶつける訳でも、愛を求めるわけでも与える訳でもないその関係が居心地良くて、
ずっとずっと、続いていくものだと思ってた。

それは願いに近い、あの日の僕の気持ちなのだ。

ただ、その気持ちとは相反するように、少しずつ僕と蒼ちゃんの世界は壊れていった。

大人になっていく蒼ちゃんと、此処に居たいと癇癪を起こして大人になれない僕。

溝ができていくのは簡単だった。

ほんとはね、知ってたんだよ。
蒼ちゃんは僕と違って魅力的な子だった。
みんなに好かれて、愛されて、大切にされる、普通の女の子だった。

色んな価値観に触れて、成長していく蒼ちゃんの魅力を、周りは見逃さなかった。
色んな人と恋愛をして、友情を築いて、愛し愛されて。

ねえ、僕の蒼ちゃんだったのに。
一番最初に気付いたのは、僕なのに。

本当は、深く踏み込んで、醜くても、馬鹿みたいでも、いつか壊れてしまうとしても

僕は蒼ちゃんの特別になりたかったんだ。

なれなかったんだ。


_______ねえ、蒼ちゃん。

僕は、一瞬でも君の心の中の特別になれたのだろうか。

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