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髪を切ってもらうお店で餃子を食べた | 金曜日のひとりごと


美容室で過ごす時間が好きになったのは、おそらく大学時代。

美大の建築学科だった当時、課題の制作に時間を割いていたためアルバイトはあまりしておらず、お金があるなら模型の材料にしたかったしご飯を食べたかったから、美容室に行くのは数ヶ月に1回程度だった。

クーポンを駆使していろいろな美容室に行ったけど、途中から居心地がいいと感じるひとつのお店に通うようになった。

そこは女性がひとりでやっているお店。

その美容師さんはとても気さくで、なんでも話せちゃうし、似合わない髪型をリクエストすると素直にダメ出ししてくれた。

そのお店にいる間は笑い声がたえず、一人暮らしをしていたわたしにとって、たまに会う親戚のお姉さん的な存在だった。

その人との間で、いまでも記憶に残っている出来事がある。

突然、強烈な空腹に襲われて「お腹すいた…」と何度も繰り返していたわたしに、美容師さんが「え、一緒にたべる?」と餃子を出してくれたのだ。

ほんの少し前に、ご近所さんかどなたかが差し入れだと言って持ってきてくれたものだった。(その場面を見ていてお腹がすいたのかも…今思うとあからさまに狙ってたみたいで嫌なお客だ。笑)

「若者はしっかり食べなさい」という声とともに、目の前に餃子と醤油皿が並べられた。

美容師さんは「はじめてお客さんに餃子出したわ」って言って笑っていた。

たぶん、美容師さんにとってもそんなシーンは後にも先にもないのではないだろうか。実際10年以上たっているがあの日以来、わたしも美容室で餃子を食べたことはない。

でも、あの日のこととか、それ以外にも美容師さんとおしゃべりした時間が楽しかったから、わたしにとって美容室で過ごす時間は今でも楽しみになっている。

そのお店はわたしが大学を卒業してから、美容師さんが遠くに行くことになって閉じてしまったので、もうずっと会えていない。

もし再会することがあれば、「あのとき、餃子を食べさせてもらったわたしです」って言いたい。(なんのこっちゃ)

32歳になったいま、金曜日の夜に美容室にいながらそんなことを考えている。

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Koimizu Shiori
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