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わたしがカトラリーを本気でえらぶ理由

食材にこだわるように、料理の腕をみがくように、おいしい食事のために食器やカトラリーを選んでみたことはありますか

今回は、カトラリーのお話です。

2020年9月の下旬、代官山のギャラリー無垢里で開かれていた木工作家・町田翔さんの展示「ありがとうの匙」へ足を運び、スプーンとフォークを1本ずつお迎えしました。

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新たにカトラリーを買うなら町田翔さんが作ったものを——。と何年も前から心に決めていました。

わたしが翔さんの作品を初めて使ったのは、約10年前。当時は山形の大学に通っていて、蔵オビハチというお店でアルバイトをしていました。いろいろな作家さんの展示なども行っており、そこで翔さんの作品にであいました。

手仕事でつくられたものに興味を持ち始めていたころでもあり、ずうずうしくも翔さんのアトリエに伺いたいと連絡をしました。

考えられた使い心地のよさ

見ず知らずの大学生の突然のお願いを受け入れてくれた翔さん。アトリエでは、実際に制作に使っている道具などを見せながらカトラリーや食器の制作過程を説明してくれました。

そして、翔さんは仕上げをまつカトラリーを手にとって、目指している使い心地について話してくれたのです。

食事をするときの手の動き、口の開き具合、あごを引くかどうかなど、わずかな動作も見逃さず、食事動作のステップを細かくわけたうえで、一つひとつに無理がうまれないかたちを探しているそうでした。

自ら日常的に自身の作品を使い、購入された人の声も聞きながら常にブラッシュアップしているというのも感銘を受けました。

こんなに丁寧に使う人のことを考えているなんて──。それまでのわたしの手仕事への関心は上辺しかみえていなかったと気づかされました。

そのあとすぐに、わたしは翔さんのカトラリーを初めてお迎えして、何年も使うことになります。

変わっていくことへの信頼

常にブラッシュアップしている、ということで「あのとき購入したカトラリーとはすっかり形が変わったよ」と教えてもらい、新しい作品をお迎えしたいと思っていました。

今回、展示に足を運んで、手に持ってみて、何を食べるときに使うか想像し、食べるときの動作を何度もやってみました。

「食べ物はどれくらいのるかな?」「そのとき自分の口はどれくらい開くかな?無理な口の開け方にならないかな」などと考えながら選んだ2本です。

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1本ずつ手彫りで仕上げられているカトラリー。同じ型をつかっていてもわずかに違いがあるのでお気に入りの子を見つけるのも楽しみの一つ。

わたしは、フォークは真ん中の"ほくろ"に一目惚れしました。先代の子にも同じような"ほくろ"があったのです。
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それぞれ早速使ってみましたが、たしかに何年も使っていたカトラリーからさらに進化した使い心地の良さを感じました。

無理なく食べられる動作が、これほど食事を快適にしてくれるとは。またしてもものづくりの奥深さ実感しました。このとき快適だと感じて初めて、これまで無意識のうちに我慢していたことがあったのだと気づかされました。

こうした道具は変わらないことへの信頼もあるけど、変わっていくことで得られる信頼もあるんだろうな、としみじみ思います。

食事の時間を豊かにするのは食材や料理だけではない

そもそもわたしは実家で暮らしていたときに、食事自体に興味はあっても食器やカトラリーに関心のある人間ではありませんでした。

だからこそ、こだわってみた「食事の時間」の変化をよく感じています。

作り手のこだわり、素材への愛着、使い心地…。そんなところに意識を向けてみたら、「美味しいものをたくさん食べるのが好き」だったのが「食事の時間を豊かにするのが好き」へと変わっていったのです。

「今までそんな事は考えたことがなかった」という、かつてのわたしのような方がいたら、お気に入りのカトラリーを探してみてはどうでしょう、と提案したいです。

もしかしたら、あなたのその一口、もっと最高にできるかもしれませんよ。

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Koimizu Shiori
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