物語の中に見た透明な指輪をはめた日
6月の第一日曜日は「プロポーズの日」らしい。ジューンブライドにちなんでいるそうだ。なかなか思い出深いので、わたしたちのプロポーズについて振り返ってみたいと思う。
はじまりについて
わたしと夫との出会いは大学時代。県をまたいで別の大学に通っていたが、建築学生という共通点があり、サークルで知り合った。ただ、学生時代はあいさつ程度しか言葉を交わしたことがなかった。
大学卒業後、地元の秋田に戻り就職したわたし。大学院に進んだ彼から冬のある日突然TwitterでDMがあった。
「これからしーちゃんの地元の駅を通るよ」
彼は電車で移動していたらしく、ちょうど時間を持て余していたわたしは直ぐに返信。
「降りる時間があるなら、いろいろ案内するよ」
駅につく時間を聞いて、車を走らせている途中にふと思った。
──わたし、この人とまともに喋ったことないや…。
駅で久しぶりの再会を喜んだのも束の間、わたしは彼に後部座席に座るようお願いした。
こんな調子だったが、この日案内したなんの変哲もない展望台でわたしは5年後にプロポーズされることになる。
交際開始から2年目の夏
突然再会した日のあと、偶然が重なってもう一度お茶をすることはあったが、2年間はSNSでたまに「いいね」したり、コメントするくらいの関係が続いた。
ところがいろいろとあり(ここでは割愛する)、わたしが秋田、彼が神戸にいるときに突然の遠距離恋愛が始まった。
お互いに仕事が忙しかったので、会うのは数ヶ月に1度。会うときはお互いのスケジュールを十分に相談していた。
ただ、予定になかったタイミングで突然彼が「秋田に行く」と連絡してきた。まあ、会えるときに会ったほうがいいか…と深く考えずに彼が滞在する二日間の予定を立てた。
「あの展望台に行こう」
そのときにこんな会話があった。
あとから考えるとかなり伏線なのにわたしは全く気づかなかった。
あの展望台へ
一日観光を楽しんで、夕暮れの気配が漂いはじめたころ、口数がどんどん少なくなる助手席の彼の変化に気づかないまま展望台へと向かった。
夏の展望台はとにかく暑い。空調はなく好天のおかげで中はサウナ状態だ。
そこまで広くない展望台を彼は何周もしている。よくわからないけど夕陽をみたがってたしな、と気が済むまで待つことにしてわたしはベンチに腰を掛けて暑さに耐えた。
忘れられない夕陽
少ししてから隣に座った彼は、こちらを見て「結婚しませんか」と言った。
「また冗談か──」と思った。
会えない期間、何度も「これ、プロポーズの練習ね」と言っては「結婚」というキーワードを出していたからだ。
わたしが「それ、いつものやつと何か違うの?」と聞くと小さな箱をポケットから取り出した。
中にあったのは透明な指輪。
左手の薬指にはめてくれた。サイズはぴったりだ。
オレンジ色の夕陽が差し込んできて、涙が出た。
「よろしくお願いします」
わたしは何度も指輪を夕陽にかざした。
みえない指輪のプロポーズにあこがれていたわたし
「ALWAYS 三丁目の夕日」という映画をご存知だろうか。2005年に公開されたその作品の中に、主人公が"見えない指輪"でプロポーズするシーンがある。何度観ても涙が出てくる、大好きな場面だ。
彼にその映画のシーンが好きだと言ったかどうかは覚えていないけど。わたしは自分が受けたプロポーズのあと、指輪ごしに夕陽を見つめながらそのシーンを思い出してまた泣いた。
彼は「ちゃんとした婚約指輪はあとでふたりでつくろう」と、透明な指輪を用意してくれたようだった。
ふたりで一緒に行く場所にしよう
結婚式をする前にわたしたちは思い出の場所を巡って、自分たちで前撮りをした。
もちろん、あの展望台にも足を運んだ。
なぜ、このなんの変哲もない展望台をプロポーズの場所に選んだのか。
それは結婚でふるさとを離れるわたしに、"簡単にはなくならない"ふたりの思い出の場所をつくりたかったからだそうだ。
夫は「きっと何十年たってもあの場所に展望台はあるだろうから、秋田に帰ったらふたりでまたあそこに行こう」と言った。