二叉路 第4回
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第4回 耕→六
第四回。ここまでで感じたことを一つ言うと、「二叉路」の形式は福田にとって動きやすい反面、僕は少々ぎこちなくなってしまうような感触がある。簡単に言ってしまえば得意不得意の問題で、例えば対面でこの二人が喋るとき、その割合は福田8小池2くらいになりがちだ。それに対してこの往復書簡は、制約は緩いもののある程度福田と同じ量を返すことになっている。となると僕はいつもとはだいぶ違う動き方になる。一番大きいのはつまり時間がたくさんあって、たくさん悩めてしまうという点だ。別に愚痴を言いたいわけではない。むしろこの場この形式によってこそ生まれる課題として僕にとって非常に有意味だと思う。それは福田にとっても少なからずいいことだろうし。
さて何を話そうかな、
前回の「総じて碌でもない、というわけでもない」についての「偉大と悲惨の極に回収されることのない価値が確かにあるのではないかという想定からくる葛藤」という言葉はけっこう分かった感じがして、頷いていた。僕の言葉でその葛藤を言ってみるなら「何でもできるということは何にもできないということ」[1]になるだろうか。せっかく「あいまい」につなげてくれたので僕の話をしてみる。多彩と器用貧乏は紙一重、と言い換えてもいい。この葛藤から抜け出すことはできないし(抜け出したところで別の葛藤があるだけで)、僕は既に「多彩であることができる、という特技」としてやっていくしかないという判断を下している。
で、僕や福田はよく「全部やる」と口にするが、「全部」ってなんなんだ。そんなことは可能なのか?それはすべてに対して「あいまい」であり続けるということなのか、それともすべてに対して最大限の達成を求めるということなのか。
この疑問から僕は「身体」と「家」を連想する。僕らは人間である以上身体をもち、家を必要とする。この「家」は儒教や民俗学的な家族や社会構成単位の話ではなく、単にぼくたちが帰ってくる場所、生活する場所、としての「家」のつもりだ。僕は「全部やろう」とするとき、単純に「体が足りない」と思う。同じ日に読書とピアノとお絵描きが満足にできることはほぼない。全部やろうとするというと身体が引きちぎれてしまうし、そうなれば元も子もない。そして「家」について。これについて考えてしまうのは僕が2023年の3月末から一人暮らしを始め、家事をはじめとした生活を日々ひとりで行うようになったこととも大いに関係があるだろう。僕たちは健康で文化的な最低限度の生活を営むために、睡眠、排せつ、料理、食事などをする場所として家を必要とする。身体と比べると強制力は弱いものの確実に僕らの動き方を規定しているものの一つだと思う。どこまで遠くに出かけても必ず家に帰ってくることになるし、デフォルトとして毎日料理をし食事を摂る必要は生じる。僕はいま一日二食、昼食と夕食を欠かすことはほとんどないのだけど、毎日どんな食材を買ってどんな料理をして食べるかを考えるのに結構時間を使っていて、ふつうに意味が分からない。
もちろん全部やりたい。だけど僕らには身体と家をもっとも身近なもののひとつとして、様々な制限を受けている。では「できる範囲で全部やる」と言えばいいのかというとそれは本末転倒だ。「全部やる」というのは「できる範囲で」という言葉から逃れるために僕らがつい発してしまう勢いを持ったフレーズだ。この勢いが大事なんだろう。身体が引きちぎれそうになったときに突然関節がぐにゃりと曲がったことで届くようになるものや、隙間からびゃっっと噴きだした体液でしか描けない物があるのだと。そう信じている[2]。
僕らは短歌をやっているけれど、定型についても同じことだ。つまり僕は僕の「全部やる」に対してなにが「定型」になっていてそれはどんなカタチをしていてどう立ち向かえばいいかということに興味があるのだと思う。さらに言うならば、定型を振り切ることができない以上(できたらつまり死んでいる)、定型を最大限逆手にとって、裏をかきたい。冒頭で往復書簡という形式について考えて書いてみたのもそのためだ。
どうつなげられているのか自分でも分からないけれど、つながっているとは思うので、ここらへんで福田にパス。
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[1]「できる/できない」という言い方は好きじゃないけど、分かりやすいので一旦こう言っておく。ピアノだってギターだってビンタすれば誰でも弾けるんだし、短歌だって31音くらい喋れればいいだけで、誰だって「できる」。問題は「やってる」か「やってない」かだけで。だから本当は「何でもやってるということは何にもやってないということ」と言いかえたい。
[2]僕は書きながら考えて、大体思ってたのところとずれた方向に進んでいくから、この段落のことも、「そう信じている」とかも、自分で書きながら自分でへーと思ってる。真に受ける加減を適当に調節してほしい。
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福田六個のnote↓
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