今こそ花井愛子を語ろう -プロローグ-
2020年、ありがたいご縁があって『大人だって読みたい!少女小説ガイド』に花井愛子のコラムを寄稿させていただきました。
数年前の私からは想像できなかった業でございました。
今日は、ここに至るまでの私の歩みを長々と語らせていただこうと思います。
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漫画雑誌で作品をつくるうちにセリフに着目するようになった私は、ふと花井愛子のことを思い出した。
私が中学生だった1980年代後半、少女小説が大ブーム。クラスの女子は全員と言っていいほどこぞって読んでいた。
私もコバルト文庫作品を数冊は読んだことがあったが、当時は深入りすることはなかった。それくらいだったので、「少女小説」という言葉は知らずそれ全般が「コバルト文庫」という名称だと勘違いするほどだった。
なので知らなかったのだ。皆が夢中になって読んでいる花井愛子作品は「X文庫ティーンズハート」というレーベルから出ているということを。
コバルト文庫しか読んだことのない私は「来月の新刊」のしおりに永遠に載らない花井愛子に出会うことがなかった。しかし存在は知っていた。皆が口を揃えて「花井愛子、いいよね❤️」と言っているのを聞いていたから。だから教室の共有スペースに花井愛子作品を見つけた時、思わず手が伸びた。
何気なく開いてみた。衝撃だった。
ページの下半分が白かった。
そして「……」「‼︎」「っ」が目に飛び込んできてチカチカする。私はそっと本を閉じた。
それから30年の月日が経った。
そして私は思い出したのである。あのとき衝撃を受けた花井愛子を。
あの頃はほとんど何も読まずに本を閉じてしまったが、少女漫画のような機微を感じる言葉があるのではないか?
私は早速「コバルト文庫」で検索をかけた。もうすぐ2019年になろうとする2018年の冬のことである。
集英社のコバルト文庫のサイトで「花井愛子」を検索しても一向にヒットせず首をひねった。講談社のX文庫ティーンズハートで名を馳せた作家なので当たり前なのだが、それすらも疑わないくらい私は無知だったのだ。
ただ、私は別の情報を得た。「コバルト文庫紙刊行停止」の知らせである。
驚いた。
あそこまで確立していた存在がなくなるのか!?この時は「コバルト文庫=少女小説」と思っていたので「少女小説が無くなる」と早合点したのだ。
今の私たち世代を形作ったもののひとつに少女小説は間違いなくあった。その存在が風前の灯火になっていると知り、当時のめり込んだわけでもない私は焦った。
その後、電子書籍は残っていく情報を得て安堵したものの、今度は花井愛子作品がひとつも電子書籍化すらされていない(そしてレーベルは無くなっている)ことを知り、驚くと同時に危機感を覚えた。
花井愛子は当時知らない少女はいないくらいのブームを何年も起こしていた作家だ。その当時の本と出会う機会が市場にない。風俗的側面からも危機感を覚えた。
とりあえず、まずは花井愛子を知らなければ。図書館サイトで見繕って花井愛子作品を5冊近く借りた。
と、同時に少女小説のことがわかる本を探した。これがなかなかなかった。
そんななか出会ったのが、少女小説ガイドでお声をかけてくださった嵯峨景子さんの『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』だ。
30年もの時が過ぎ、少女小説の全容を知る術があまりにもなかった。ブームの最中に青春を過ごしながらも何も気にかけていなかった後悔をしていたところに出会ったこの本には私の「知りたい」が詰まっていた。そして知ることにより、少女小説作品をエンタメとして一時的に消費するのではなく「作品」として残すべき、そしてその努力が必要なのだなという思いも新たにしたのだった。
そして花井愛子である。
すごかった。
30年後にまた衝撃を受けると思わなかった。
「すぐ読み終わっちゃう」が売りでもあった花井愛子作品だったが、私は最初の1冊を読むのに2週間かかった。なかなか進まなかった。
30冊近く読んだ今思うと、最初に借りた作品の引きが強かったようにも思う。花井愛子を堪能するならこれだ!と思う本はこの中のものに多いので刺激も強かったのだろう。だからこそ「もっと触れたい」という意欲も出た。
少女向けの敷居の低さを貫いた花井作品のストーリーは超単純で、その中でも構成のバランスが独特なのが興味深かった。言いたいことを言いっぱなしにするアンバランスさが、そのころ制作のテーマで扱っていたフランツ・カフカと重なることもあった。
そして花井愛子作品といえば言葉のチョイス。花井作品を噛めば噛むほど、同時期の他作家の作品と比較すればするほど、圧倒された。養殖じゃない天然級の敵わなさを日に日に感じた。
ますます私の中で少女小説、というか、花井愛子作品を根絶やししてはいけない謎の使命感が生まれてきた。
読み始めて2ヶ月近くでこんなことを呟いている。それより作品つくれよ!という感じである。
そしてその約3ヶ月後ー
なんとアートギャラリーで読書会開かせていただくことに。有言実行がすぎる!それだけ花井愛子に関することへの私の勢いがあった。
ちなみにパラボリカ・ビスさんはこのころ読書会を多数開いており、澁澤龍彦、三島由紀夫、幸田露伴などを扱っている中ねじ込んでもらった。
その流れだったからか少女小説を嗜んだことのない方々の参加も多く、年齢問わず性別も問わないメンバーに花井愛子を認知してもらう有意義な会となった。
しかしこの時点で花井愛子作品は電子書籍もない。終了後の座談会で「どうしたら電子書籍が出るか」と関係者が誰もいない部屋で議論をしたあの日が懐かしい。
というのも出たのだ!それから半年後に。
もちろんたまたまのタイミングだが、2019年の私の花井愛子活動のフィナーレにふさわしい朗報であった。
しかしここから2年、花井愛子のティーンズハート作品の電子化は途絶えている。
11作目の電子書籍化を願いつつ、花井愛子作品をご紹介していけたらと思っている。