zassi の刊行形態
日本雑誌協会が発行していた統計資料として『Magazine Data(マガジンデータ)』というものがある。残念ながら2021をもって刊行が終了してしまったようだが、これは日本で発行されている主な雑誌の発行部数等をまとめたものである。
最終刊となった2021をパラパラと見ていたところ、とある記述が目に留まった。
みなさんご存じの通り、雑誌というものはだいたい「週刊」とか「月刊」とか「季刊」というように刊行形態(刊行する頻度)が定められているもので、まれに「不定期」という雑誌もあるのだが、とある『雑誌A』(仮称)の刊行形態の欄にはこう書かれていた。
「適時刊」
はじめて目にする刊行形態に慄く私(図書館員)。
付されていた編集長のコメントには
「2018年よりテーマ、発売日をフレキシブルに設定できる適時刊として発行」
と書かれていた。
発売日の欄には「不定期」と書かれていたので、不定期刊ではダメだったのだろうかと思いつつページをめくっていると「不定期刊」と記された雑誌を見つけた。ここでは『雑誌B』としよう。ただし、この雑誌の発売日の欄には「2、5、8、11月の各25日」と書かれていた。・・・決まっているじゃん!しっかり3か月に1回じゃん!
戦慄する私(図書館員)。
というのも、図書館では雑誌の刊行について利用者に聞かれることがままあるからだ。
「○○の最新号ってこれ?」
「△△の次号はいつくるの?」
などなど。そして、図書館では複写サービスに著作権が関わるため
【どの号がその雑誌の最新号か、あるいはこの最新号とみられる号が発行されてから何か月たったか】を把握しておく必要がある。
ということで、一筋縄ではいかない刊行形態の雑誌をいくつか紹介しよう。
まずは、前述の雑誌A・Bを含む不定期なものと、少し特別なのもの
雑誌A■刊行形態:適時刊、発売日:不定期
雑誌B■刊行形態:不定期刊、発売日:2、5、8、11月の各25日
雑誌C■刊行形態:年4~6回、発売日:不定期
雑誌D(相撲系)■刊行形態:各場所前刊、発売日:月末または月初
雑誌E■刊行形態:年2回刊(不定)、発売日:6、12月刊
これを見ると、そもそも刊行形態には厳格なルールがなく、各出版社または各雑誌の編集部で自由に設定しているようだ。そのため不定ということばを一つとっても様々なバージョンが存在する。『雑誌C』が一番不定期っぽい。『雑誌B』と『雑誌E』は全然不定ではない気がするが、編集部単位ではなく出版社単位でのルールがあるのかもしれない。『雑誌B』を季刊と表現しないルールがきっとあるのだ。『雑誌D』、これはもう実にわかりやすい。
次に、月刊の仲間(?)といえるもの
雑誌F■刊行形態:月刊、発売日:6、12月休刊
雑誌G■刊行形態:年11回刊、発売日:15日
雑誌H■刊行形態:年10回刊、発売日:1、8月を除く各1日
雑誌I■刊行形態:年10回刊、発売日:5、11月は合併号
『雑誌F』と『雑誌H』、そして『雑誌I』はそれぞれ年に10回の発刊となるが表現が違う。『雑誌F』の方は「月刊なんですが、6,12月号は休刊なので最終的には年間で10冊の発行なんですよ。」と読み取れるが『雑誌H』ははじめから『年10冊です(キッパリ)』という印象を受ける。『雑誌I』は「年に10冊ですけど、12か月分は出してますけど?」といったところか。『雑誌G』は教員用の専門誌なのだが、発行されない月はいつなのだろうか。あんまり授業しない時期?夏休み?
そして解釈の幅が大きい季刊のもの
雑誌J■刊行形態:季刊、発売日:3、6、9、12月の各2日
雑誌K■刊行形態:季刊、発売日:3、5、7、9、11月の各10日
雑誌L■刊行形態:年4回刊、発売日:3、6、9、12月の各16日
雑誌M■刊行形態:年4回刊、発売日:3、5、9、12月の各8日
そもそも季刊というものは季節の境目を何月とするかという問題があるので様々なのだが、見た感じ『雑誌J』のように3、6、9、12月がポピュラーなようだった。『雑誌L』も季刊と銘打ってもよさそうだが年4回刊としている。『雑誌M』は年4回の発刊のペースが均等でないので季刊とは表現しなかったのだろう。そして『雑誌K』、なぜ季刊なのに5回出すのだ。春夏秋冬の概念はどうした。隔月号(1月休刊)とか年5回刊ではいけなかったのか。
図書館内で雑誌をコピーする(※1)場合、著作権により最新号は1記事の半分までしかコピーできないが、バックナンバーは全文コピーができる。しかし、最新号が発行されてから3か月たっても次号が発行されない場合(季刊よりも発行間隔が長い)は、その号が最新号だとしても全文コピーができるとされている。ということは、『雑誌M』の3月号は次号の5月号が出るまで2か月間最新号として保護されるが、5月号は次号の9月号の発行を待たず、8月8日(※2)までの3か月が保護対象であると解釈できる。
※1:図書館での複写サービスは著作権のほかに、その図書館の管理運営上の観点からそれぞれ独自にルールを定めていることがある。例えば、“運用上の観点から最新号は一切コピー不可”とする図書館もあるし、『雑誌M』のような刊行ペースだと“わかりやすいように次号発行されるまで”とする図書館もあるだろうし、書店ではすでに発売されていても図書館に届くまではバックナンバーとは見なさないというルールもあると思う。
※2:これは5月号が5月8日に発行された場合だ。だがしかし!なぜか雑誌はだいたい○月号とした月の前月に発行する。5月号はだいたい4月に発行されている。これは本当になんで??いつから、なぜそういう慣習になったのか。5月号は5月に出したらよいのでは?ちなみに私は先日、GW特別定価の6月号を4月に買ったぞ。なんでそうなった?誰か教えて!
そして断トツ「・・・な、なぜ???」となるのがこの1誌
雑誌X■刊行形態:隔月刊、発売日:奇数月2日(偶数月は別冊として発行)
これ、年間購読契約した場合どうなるんだろう?隔月分の6冊?別冊も含んで12冊?
そう、これも図書館員にとっては難関だ。別冊や増刊を含むのか問題である。
個人的にはこういう時は、通巻でのみ考えたい。
雑誌には巻号数というものがついている。【○巻△号(通巻▽号)】と書いてあるアレだ。○巻というのはだいたい1年単位で次の巻になる。△号は年間の発行回数だ。通巻▽号は創刊から通して数えた数だ。つまり月刊誌が創刊されたら、はじめの年は【1巻1号(通巻1号】から【1巻12号(通巻12号)】となり、2年目は【2巻1号(通巻13号】から【2巻12号(通巻24号)】となる。図書館では通巻のところを見て欠号を確認する。(※3)
通巻を見てずっと連番になっていれば、とりあえず抜けていないといえる。
まぁ、別冊や増刊がこの巻号数のカウントに入るかどうかというのはわからないんだけど。その雑誌によって違うから。
こういう雑誌、購読している図書館は大変だな。
「『雑誌X』はあるけど『雑誌X別冊』は所蔵していません。」とか
「この雑誌の○○という特集の号が見たい」→「それは別冊の方ですね」とか
「2月に別冊が出ても、1月の本誌はバックナンバーにならないという解釈?」とか
『別冊雑誌X』というタイトルだったら、「『雑誌X』はサ行の場所にありますけど、『別冊雑誌X』はハ行のとこにあります」とか(※4)
想定する質疑応答を考えるだけで鬱々とする。
※3:新聞にもこのような通し番号が付いているので、○月△日の新聞がないと思っても前後の通し番号が連番になっていたら、その日は休刊日だったということがわかる。ちなみに当然だが、図書館では朝一でどの新聞が届いたのかをチェックして、未配達の場合はすぐ配達店に連絡する。なので、休刊日でもないのに新聞がない場合は・・・残念だけどそういうことだ。
※4:雑誌タイトル難しいあるあるの一つ。雑誌はタイトルの50音順で書架に収めることが多いのだが、タイトルの頭に「月刊」とか「週刊」が付くかどうかとかそんなの覚えていないので、「ここにあるはずなのに・・・」ということがよくある。よく知られる雑誌名でも、正式名称に実は「月刊」がついていたとかザラにある。学会誌だと頭に「日本」って付くかどうかも悩ましい。
さて、この『Magazine Data(マガジンデータ)』のような統計資料がなくなるというのは、非常にもったいないことだ。各誌の発行部数は日本雑誌協会のサイトで公開されているが、一覧性に欠ける。今回紹介したような刊行形態に関する記述もない。もちろんwebで見られることは便利なのだが、この統計が永遠にweb上にあり続けるかの保障はないし、ある日急に会員制になるかもしれない。(※5)創刊から2021まではどこかの図書館で保存しているだろうが、2022からの統計は保存されないと思った方がいい。
※5:図書館では、会費の扱いはこれまた面倒なことなのだ。個人向けのものは当然図書館では契約できないし、法人向けでも団体の規模によって金額が変わったりするし、会費と引き換えに資料が入手できるなら「会員費」じゃなくて実質「資料費」かとか、今すぐ見たくても年度会計の都合で4月からじゃなきゃ契約できないとか。
たとえば10年後の2032年に『雑誌A』の創刊30周年記念で発行部数のグラフを作ろうと思った時に、その出版社または編集部でデータを蓄積していない限り、調べられないかもしれないのだ。2021までは図書館に見に行けばいいが、2022~からはweb上にしか存在しない。調査機関で過去のものも全て公開されていればセーフだが、webサイトというものはリニューアルとかである日急にそれまでのコンテンツがなくなることがとても多い。
東日本大震災の後、様々な自治体や企業、団体が復興の取組みやイベントの報告をHPやブログに載せていたが、震災10年が過ぎ今ではアクセスできなくなったものも多々ある。図書館が勝手に印刷して残しておくということはできないので、
「希望の図書館にはPDFを送信しますので印刷して所蔵資料としていいです」とかやってくれたらなぁと思ったりなんだり。
同様に、雑誌のweb移行も図書館としてはシンドイ問題だ。
公的な機関で残しておけないって大問題なんですよ。
書籍の中でも特に雑誌が販売不振な状況で出版社にもWebのみにするしかない都合があるのは重々承知している。ただ、図書館はこういう目線で考えていますというのを、もっと図書館関係者は図書館関係者以外がいる場所で言っていかないといけない。
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