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「顧客起点」だけではうまくいかない!?製造業の新規事業・サービス開発

最近、日本を代表するメーカーの方々と新規事業・サービス開発プロジェクトを進めることが多くて(偶然かな?)、いろいろ気づきがあったので簡単にまとめておきます。
※ちなみに、一気に、そしてかなり単純化して書いているので僕の思い込みや決めつけ多数ありますが、これぐらいのザクッとした粒度で整理されていれば考えやすいかなと、あえてそのまま公開します。

経済を牽引してきた(と言っても過言ではない)日本の製造業。新規事業のプロジェクトでは、例外なくめちゃめちゃ苦しんでいます。共通するキーワードとしては、「モノからコトへ」「プロダクトからサービスへ」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」って感じです。最近は「After/Withコロナ」も多くなってきました。

では、なんで苦しんでいるのだろうってことですが、製造中心とサービス中心(もしくは、製品開発とサービスデザイン)の違いと大企業の特性から考えていくとわかりやすいかなと思いました。

顧客起点だけではうまくいかない!?

新規事業・サービスを検討する際によくあるのが「顧客起点」で考えようというやり方です。ユーザーインタビューして、KA法・KJ法などで構造化して、潜在的な課題を発見しようというプロセスです。プロセスとしては間違いない。ただ、これを大企業でやると結構うまくいきません。なんでだろう?

現在「顧客起点」で考えている新規事業って、リリースするころには当然ですが市場(顧客と競合)も変化します。スタートアップは、市場が変化しないスピード感でサービスをβ版リリースしながら、PMF(プロダクトマーケットフィット)を目指しますが、大企業では、早くても2〜3年後のリリースを目指すことが多い。特に製造業は「品質管理基準」が圧倒的に高く(厳しく)、サービスだったとしても、なかなかリリースさせてくれません(涙)。さらにその基準を満たそうとするとコストがかかるため、初期から投資が大きくなり事業の確実性を求められるという悪循環にも陥ってしまいます。本質的には、リリースまでの期間を短縮したいのですが、実際には意思決定基準やプロセスなど、組織横断的な改革をしなければならなくなるので、それ自体に時間がかかってしまう(でも、これは中期的にはやらないといけないと思います)。

では、どうすればいいの?ってことですが、顧客起点に加えて、未来視点を掛け合わせるのが大切だと思っています。
つまり、リリースまでに3年かかるのであれば、3年後の未来シナリオを複数検討してみるということです。これには2つの効果があります。ひとつめは、単純ですが、未来に対する新規事業を考えられるということ。ふたつめは、見落とされがちですが、未来につながる大きなトレンドや社会の変化を理解した上で、ユーザーインタビューを実施すると、今まで気づかなかった「兆し」が発見できるようになること、つまり、潜在的な課題や欲求が発見しやすくなるということです。
※本論とはズレますが「ユーザーインタビューしたけど、わかっていたことがわかった」っていう結果になってしまう方は、インタビューより前に未来リサーチをしてみるといいと思います。

先行きが見えない時代だからこそ、イノベーションを「未来視点」で考えるべき4つの理由 | “生活者データ・ドリブン”マーケティング通信前回は、問いが枯渇している時代にイノベーションを創出するために、前提条件を破壊し「課題を創り出す企業」になるべきであると書seikatsusha-ddm.com

製品開発とサービスデザインの違い

ここまでのプロセスで、3年後を見据えためちゃめちゃ魅力的な新規事業アイデア(提供価値)を考えられたとしましょう。で、上申をしてみるとアイデアは屍に(涙)。新規事業なので、もちろん不確実性は高いのですが、大企業の事業化には、既存事業レベルの「確実性」が必要です。というわけで、ビジネスデザインが重要になってきます。

ただ、多くの場合、新規事業担当者・マーケティング部門・製品開発部門はビジネスデザインに苦手意識があります。長年、事業を展開している会社の方々がビジネスデザインを苦手としていると聞いた時は「???」となりましたが、今では、製品開発では「ビジネスデザイン」は必要ないのだと理解できました。つまり、製造ライン・販路などはほぼ決まっているので、魅力的な製品コンセプトだけを考えればよくて、ビジネスデザインは製造コストの試算くらい、なのかなぁと思っています(まぁ、言い過ぎですが・・・)。
そして、製品販売は、基本的には売り切り型のビジネスとなっていて、一定規模は必要となりますが、1回購入してもらえれば利益がでる構造です。購入後はアフターサービス。そのため、重要なのは狭義のマーケティングやプロモーションになります。

購入は、終わり?はじまり?

けれど、サービスは、コンセプト=提供価値を考えただけではだめで、提供手段、収益モデルも考えないと「ビジネスモデル」にはなりえません。なぜなら、めちゃめちゃ単純化して言うと、サービスは1回購入してもらっても赤字で、1年ぐらいの期間をかけて利益を出していく構造だからです。つまり、重要なのは1回購入してもらってからの継続性、そしてカスタマーサクセスです。製品販売では購入で終わりですが、サービスでは購入がはじまりなのです。

そして、提供手段・収益モデルの設計で大事なのは、継続性(UXと課金デザイン)・循環性(システム思考/顧客が顧客を呼ぶ)・限界費用ゼロの活用(サービスの価値化)の3点を満たすことで、これが揃わないとなかなか成功しません。当然、モニタリングするべきKPIも異なっていて、製品は、販売個数やシェアが大事ですが、サービスは、MRR(ARR、定期の利益)、ユニットエコノミクス(顧客あたりの利益)が大事になります。


ものづくりを強みとしたサービスへ

いままで書いてきたように、あらゆる面で製品開発とサービスデザインとは異なります。そして、組織・人材は既存ビジネスに最適化されていると考えられるので、大多数の製造業の企業・個人は、サービスデザインに対する適応できていない状態のため、苦しんでいるのだと思います。

現在、Pelotonに代表されるようなSaaS Plus a Boxという製品とサービスを掛け合わせたビジネスモデルも展開されはじめています。Pelotonは製品(エクササイズバイク)だけでも利益がでるような値付けになっていますが、サービスの課金のみで十分利益が創出できるのであれば、製品を無料で配布するといった戦略も検討されるかもしれません。その場合、製品販売のみで事業を展開している企業は相当苦しくなると考えられます。

しかし、日本の製造業の「ものづくり力」は、SaaS Plus a Boxというビジネスモデルでも圧倒的な強みになる考えています。今であれば、まだまだ間に合います。製品開発とサービスデザインの違いを理解した上で、日本の製造業として、新しい事業・サービスをどうやったら創出していけるのか?のヒントになればいいなー、そして、そんなことを一緒に考えていきたいな−、って思いながら、ここで終わります。


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