基礎後半での遅れている学生への対応
言語の習得支援について語るとき、何にせよ、学校での教科教育で使われる言葉で語るのは、どうも適当ではなくて、重要な本質を見逃してしまう気がします。教材、予習、復習、宿題など、いずれも。
遅れている学生への対応と言うと、たいていの先生は「復習」と言います。「復習」と言うと、やはり「お勉強した内容をもう一度勉強する」という響きになります。そして、表現活動の日本語教育を実践しているプログラムの場合でも、「復習」というと、言語事項が「むくむくっと」蘇って、それをもう一度指導/学習するという感じになってしまいます。
また、「遅れている」ということをめぐっては、「まだひらがなが読めない/書けない」という部分が注目されるきらいがあります。その関心の寄せ方は間違っているし、その部分を採り上げて「復習」することまったく適当ではないと思います。基礎段階の教育の中心は、オーラル日本語の基礎力を形成することで、文字や書記日本語は二次的なもの、オーラル日本語ができてから、それを追随するもの、だと思います。
この記事では、基礎後半になって、遅れている学生を配慮した習得支援のコツや方法を2つ紹介します。「舞い戻っての習得養分補給」と「本文前のかみ砕きオーラル活動」です。
筆者はNEJを活用した表現活動の日本語教育を実践していますので、その脈絡で話します。
1.「舞い戻っての習得養分補給」
ユニット17のナラティブ3が配当された授業を例として。ナラティブ3は以下。
「プレゼント」とのテーマのこのユニット、そしてこのナラティブでは、文法事項としては授受の表現があります。授業の後半で、ナラティブ1やナラティブ2も復習して、ナラティブ3に入る予定ですが、その前の授業前半で、遅れている学生に「日本語習得のための養分」を補給するために以下のような活動をします。「目のつけどころ」は上のナラティブの太字部分です。
(1)「上の子は、本を読むのが好きでした。」に注目
遅れている学生はこうした表現がまだ十分に操れないと思います。この「〜のが好きです」「趣味は、〜することです」「〜のは、むずかしいです」などを勉強したのは、ユニット14です。ユニット14のナラティブ1と2を以下に示します。
ナラティブ1も、ナラティブ2も以下のような要領で。
ステップ1
ナラティブのPPTムービー(教師間で共有されている)を、学生たちが反芻できるほどのポーズを置きながらプレイする。
ステップ2
以下のようなやり取り。
T:はーい、子どものリさん。子どものときのリさんです。
S:ふむふむ。
T:子どものとき、リさんは本を読みましたか。
S:はい、読みました。
T:そうですね。リさんは、本を読むのが好きでしたね。
S:はい、本を読むのが好きでした/大好きでした。
T:リさんの弟は、本を読みましたか。
S:いいえ、あまり読みませんでした。
T:そうですね。弟さんは、本を読むのはあまり好きではありませんでしたね。
S:はい、本を読むのはあまり好きでは…
T:あまり 好きでは ありません でした。はい、どうぞ
S:あまり 好きでは ありません でした。
T:マンガは?
S:マンガは…
T:マンガを読むのは…
S:マンガを読むのは、大好きでした。
<以降も、こんな調子で>
(2) 「誕生日には、ほしいものをあげました。」に注目
「(〜が)ほしい」については、ユニット15のナラティブ2で、「子どもは、2人くらいほしいです」で現れます。以下のように「習得養分補給」。
T:「誕生日には、ほしいものをあげました」。「ほしい」は何?
S1:子どもがほしいです。
S2:子どもは、2人くらいほしいです。
T:そうですね。ユニット15、23ページを見てください。23ページ。
下、下、下、「子どもは、2人くらいほしいです」。
T:あきおさんは、結婚したいですか。
S:はい、したいです。
T:そうですね。あきおさんは、結婚したいですね。
あきおさんは、子どもがほしいですか。
S:はい、ほしいです。2人くらいほしいです。
T:リさんは、結婚したいですか。21ページです。
S:はい、結婚したいです。結婚したいと思っています。
T:リさんは、マレーシア人ですね。
S:はい、マレーシア人です。
T:リさんは、マレーシア人と結婚したいですか。
S:いいえ、マレーシア人でも、日本人でも、中国人でも、いいです。
S3:いい人があらわれたら、結婚したいです。
T:そうですね。いい人が、あら われ たら、結婚したいですね。
S:いい人が、あら われ たら、結婚したいです。
T:リさんは、子どもがほしいですか?
S:…、わかりません。
T:そうですね。わかりませんね。
みなさんは、結婚したいですか。子どもがほしいですか。
SS: … …
T:はい、41ページを見てください。一番下。
「誕生日には、ほしいものをあげました。」
Let's suppose、みなさんの、お母さん、お父さん、おにいさん、
おねえさん、said、「誕生日には、ほしいもの、ほしいもの、
what you want、ほしいものをあげます! ほしいものをあげます!」
何がほしいですか。(←ジェスチャーも交えながら)
SS: … …
2.本文前のかみ砕き
ユニット19のナラティブ2を例として。ナラティブ2は以下。
やはり、本文に入る前に、本文前のかみ砕きとして以下のようなやり取りをします。やはり、PPTカミシバイを使います。PPTカミシバイとは、各発話毎にその内容を表現したPPTイラストです。
3.むすび
遅れている学生のためのスケジュールに「復習」を入れると、進んでいる学生は退屈するでしょう。スケジュール的には前に進みながら、上のような習得養分補給やかみ砕きをすることで、何とか遅れている学生を、come backさせたいものです。