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Photo by
kunishi
消えた看板 [ショートショート]
駅前の古い商店街を歩いていると、一枚の看板が目に留まった。何度か通ったはずの道だが、その存在を意識したのは初めてだった。「松田写真館」と書かれたそれは、薄汚れた木製のもので、文字はかすれている。今は営業していないらしく、シャッターは閉ざされていた。
私は立ち止まり、その看板をじっと見つめた。どこかで聞いたような名前だ、と記憶をたぐる。思い出せないまま、近づいて看板に触れると、驚くほど冷たかった。風が吹き、看板が微かに揺れた。
翌週、再びその道を通ったが、看板は跡形もなく消えていた。私は立ち止まり、周囲を見回したが、誰もその変化に気づいていないようだった。何かのきっかけで取り壊されたのかもしれない、と自分に言い聞かせる。
数日後、別の街角で「松田写真館」という新しい看板を見つけた。前のものとは全く異なる、金属製のモダンなデザインだった。そこには写真館が営業しており、中では若い店員が忙しそうに客の対応をしていた。
私は店内に入ることなく、しばらく眺めてからその場を去った。同じ名前でも、時間が流れると意味合いが変わるのだと感じながら。