保健室の時間割 [ショートショート]
朝の会が終わり、黒板に記されたスケジュールを眺めた。今日は三時間目に体育がある。何度経験しても、この時間が苦手だ。誰かとペアを組む必要がある種目は特に嫌いだった。
「次、体操服に着替えてください。」担任の声が響き渡り、教室中が動き出す。私は他の子たちの後ろを歩きながら、更衣室へ向かう足取りをわざと遅らせた。
更衣室の賑やかさに圧倒され、肩をすぼめる。話しかけられる心配はない。誰も私に話しかけたりしないから。でも、それでも胸が締め付けられる。
体育館に移動する直前、ふと目に入った保健室の扉。私の中で何かが動いた。「ちょっと、気分が悪いかも。」そう呟くと、自分の声が妙に冷静に聞こえた。
保健室は静かだった。看護師の先生は机の前で書類に目を通していたが、私を見ると「どうしたの?」と穏やかな声で聞いてくれた。
「少し頭が痛いです。」それだけ伝えると、先生は無言でうなずき、ベッドのほうを手で示した。私はそのままベッドに横たわり、目を閉じた。
天井を見上げると、柔らかい日差しがカーテン越しに差し込んでいる。保健室にいると、いつも時計の針が遅く感じる。この場所だけ、別の時間が流れているみたいだった。
体育が終わる頃、先生が「どうする?戻る?」と尋ねた。私は小さく首を振った。
「大丈夫、もう少し休んでてもいいわよ。」その一言に救われた気がした。保健室のスケジュールは私だけのもの。ここで過ごす時間は、誰にも邪魔されない。
私は目を閉じ、遠くから聞こえるチャイムの音に耳を傾けた。外の時間から切り離された保健室で、少しだけ深呼吸をした。
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