
チョコのリメイク方法 [ショートショート]
棚の上で埃をかぶった菓子箱を見つけたのは、雨が降り続ける昼下がりだった。長方形の箱には、金と赤で彩られた桃太郎のイラストが描かれている。桃の中から顔を出す少年の姿が、やや時代を感じさせる。
「懐かしいな」と思わずつぶやく。数年前、旅行先で見つけた限定品だ。気に入って買ったものの、もったいなくて食べられず、ついに忘れ去られていた。賞味期限は、箱の底を見ればすぐ分かるだろうが、開ける前から結果は見えていた。
箱を手に取り、リビングのテーブルへ運ぶ。湿った空気のせいか、外装の紙が少し柔らかい。中を開けると、包み紙に包まれた小さなチョコレートが並んでいた。桃の形を模したチョコは、昔の記憶を呼び覚ますような甘い香りを放つ。
「あ、やっぱり白くなってる」。チョコレートの表面には白い粉のようなものが浮いていた。古いチョコに特有のブルーム現象だと分かっていても、食べる気は一気に失せた。だが、それでも捨てるのは惜しい。
スマートフォンで検索すると、「チョコのリメイク方法」という記事が見つかる。湯煎して溶かし、クッキーやホットミルクに使うと良いらしい。それなら食べられるかもしれない。早速台所に向かい、鍋とボウルを取り出す。
チョコを包み紙から外し、慎重に湯煎で溶かしていく。昔の香りが湯気と共にふわりと漂い、気づけば目を閉じてその香りを味わっていた。溶けたチョコをスプーンですくい、小さなシリコン型に流し込む。冷蔵庫に入れたら、後は固まるのを待つだけだ。
待つ間、リビングに戻り、桃太郎のイラストを眺めた。箱には「家族みんなで楽しむおやつ」と書かれている。誰と食べようと思って買ったのだろう。当時の自分が、何を考えていたのかさえ思い出せない。
数時間後、冷蔵庫から取り出したチョコレートは、新たな形になっていた。型から外し、小皿に並べると、どこか手作りの温かさを感じる。ひとつ口に入れると、ほんのりビターな味が広がった。
「これなら悪くない」。独り言をつぶやきながら、二つ目に手を伸ばす。桃太郎チョコの行方は、新しい形で少しだけ蘇った。