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inagakijunya
コンビニで雨宿り [ショートショート]
雨が降り始めたのは帰宅途中のバス停だった。傘は家に忘れてきた。濡れるのは嫌だったので、目の前にあるコンビニへ走った。
店内に入ると、湿った空気と共に雨音が遠のいた。レジ横の棚からおにぎりとペットボトルの水を手に取る。とくに空腹ではなかったが、立ち尽くすよりは何かを手にした方が落ち着く気がした。
レジ前には誰もいない。店員は若い男性で、黙々とレジを操作していた。「袋は要りますか?」という声に、私は首を振るだけで答えた。受け取ったお釣りを財布にしまい、店の奥へ向かった。
イートインスペースは半分ほど埋まっていた。席を選び、窓際に座る。ガラス越しに見える道路は水たまりだらけで、ヘッドライトが雨粒を弾くたびに光が揺れた。
ふと横を見ると、スーツ姿の女性がスマートフォンを操作していた。彼女のコーヒーカップからは湯気が立ち上っている。きっと彼女も雨を避けてここにいるのだろう。目が合うことはなかった。
数分後、雨脚はさらに強まった。出るタイミングを計ろうとしたが、暗い空を見上げると予測はつかない。私はおにぎりを開け、一口だけ食べる。塩の味が舌に広がった。
店内のBGMは落ち着いた音楽だった。時計を確認すると、すでに夜の9時を過ぎている。外を行き交う人影は少なく、車の往来だけが一定のリズムで続いていた。
突然、店員の声が響いた。「お忘れ物ですか?」振り返ると、誰かが傘を置いていったようだ。私はそれを手に取ることもせず、もう一度窓の外に視線を戻した。
雨がやむ気配はない。