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曇り空の理由 [ショートショート]

午後三時、空はどんよりとした灰色に覆われていた。窓辺に腰掛けた私は、カップに残ったコーヒーの底をぼんやりと見つめていた。仕事を終えた後のこの時間は、いつも何かが足りない気がしていた。

ふと、曇り空を眺めながら考えた。「なぜ空はこんな色をしているのだろう?」青い空や夜の星空の美しさとは程遠い。そこにはただの灰色が広がっているだけだ。自然のことだと理解しているつもりだったが、なぜかその理由が気になった。

スマートフォンを手に取り、「曇り空 理由」と検索してみる。表示された記事をタップすると、雲の水蒸気や光の反射について詳しく書かれていた。科学的な説明はそれなりに納得できるものだったが、何か物足りなさを感じた。

「ただ灰色に見えるのも、人間の目がそう感じるからなのかな?」そう思いながら、自分の部屋の壁を見つめた。真っ白なはずの壁も、夕方の光が差し込むと少し黄ばんで見える。同じように曇り空も、人の気分次第で違って見えるのではないかと思い始めた。

その時、玄関のチャイムが鳴った。友人の直美が、持ち寄りの焼き菓子を手にやってきた。テーブルに座り、紅茶を淹れる間も直美は元気に話し続けていた。曇り空のことを何気なく話題にすると、彼女は笑いながら答えた。

「それって、誰かが空を見上げた時に、考え事をしやすいようになってるんじゃない?」

その発想が意外で、私は少し驚いた。人間のために曇り空があるなんて、考えもしなかった。だけど、そう思うと曇り空も悪くない気がした。

気がつくと、部屋の電気をつけるほど外は暗くなっていた。窓を見上げると、相変わらず灰色の空が広がっていたが、不思議と重たさは感じなかった。

「曇り空って、案外優しいのかもしれないね。」そう呟いた私に、直美は焼き菓子を口に運びながら頷いた。

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