地蔵のそばで [ショートショート]
午後の空気は少し湿っていた。道端に並ぶ石の地蔵たちは、いつもと変わらずそこにいる。彼らは無言で、ひたすらその場を見守っているように感じられる。私は、自販機で買ったチョココロネを手に、地蔵たちの前に腰を下ろした。足元には小さなマラカスが転がっている。誰かがここで遊んでいたのだろうか。特に目立つものではないが、その鮮やかな色がわずかに視界に残る。
チョココロネの甘さが口の中に広がる。柔らかいパンと中のチョコレートが、日常のささやかな贅沢のように感じられるが、それ以上の感慨は特に浮かばない。ただ、少しだけ幸せかもしれないと思う。マラカスは少し転がり、地蔵の足元にくっついた。誰も動かさないので、風で動いたのだろう。
静かな時間が流れていた。子どもの声や車の音は、かすかに遠くから聞こえるだけだ。私はチョココロネの最後の一口を食べ終えると、包み紙をたたんでポケットに入れた。手のひらには、まだほんの少しチョコレートの残り香がある。
ふと、マラカスを拾い上げた。小さく振ってみたが、音はほとんどしない。中に入っているものが、もう乾いてしまったのかもしれない。それとも、単に安物だったのだろうか。少し考えてみたが、結局それが誰のもので、どうしてここに置かれたのかはわからなかった。地蔵たちは何も言わない。ただ、そこにいるだけだ。
マラカスを元の場所に戻して、立ち上がる。自宅まではまだ少し距離があるが、急ぐ理由もない。通りを歩き始めると、地蔵たちは背後に消えていく。特に何かを感じたわけではない。ただ、今日もまた普通の一日が過ぎていく。
静かな午後の空気に溶け込むようにして、私は歩き続けた。