川辺で見た姉の姿 [ショートショート]
私はガソリンスタンドで働いている。毎日、車にガソリンを入れる単調な日々だ。ある日の夕方、給油に来た車の中に、姉の車と同じ色と型のものがあった。姉とは数年会っていない。外を見ると、その車は既に去っていた。
仕事が終わり、家へ帰る途中、川辺の道を歩いていた。夕日が川面を赤く染めている。ふと、川の中に人影が見えた。服を着たまま泳いでいる。目を凝らすと、その人物は姉によく似ていた。
「姉さん?」と声をかけたが、返事はない。川に近づくと、その姿はゆっくりと消えていった。驚いて辺りを見回すが、誰もいない。
家に帰り、姉に連絡を取ろうと電話をかけたが、「現在使われておりません」という機械音が返ってきた。リビングのテーブルに目をやると、一通の手紙が置かれていた。それは姉からのものだった。手紙には「また会える日を楽しみにしています」とだけ書かれていた。
翌日、再び同じ車が現れた。運転席を覗くと、誰もいない。車は無人のまま静かに停まっている。不思議に思いながらも、給油の準備をした。
その夜、再び川辺を訪れると、同じように着衣のまま泳ぐ人影があった。私は川辺に立ち尽くし、その姿を見つめた。彼女は振り向き、確かに姉の顔をしていた。しかし、次の瞬間には消えてしまった。
現実なのか幻なのか、私には分からない。ただ、姉がどこかで私を見守っているような気がした。
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