砂時計と包帯の夜 [ショートショート]
午後七時、私は部屋の片隅に置かれた砂時計をじっと見つめていた。古びた木製の台座に支えられたガラス管の中で、細かな砂がゆっくりと流れ落ちている。静かな時間の流れが、今日もまた何事もなく過ぎていくことを知らせているかのようだった。
包帯を巻いた左手が、じんわりと熱を帯びている。昼間、不注意から紙で指を切ってしまったのだ。傷口を水で洗い流し、手早く包帯を巻いたものの、じくじくとした痛みがどうにも消えない。そのたびに、砂時計の細い首を流れる砂粒のように、意識が傷口へと吸い寄せられる。
部屋の時計が七時半を告げる。私は立ち上がり、キッチンへ向かった。お湯を沸かしながら、ふと砂時計の残り時間を気にする。まだ半分も落ちていないようだ。なんとなく不満に思いながら、紅茶のティーバッグをマグカップに沈めた。湯気が立ち上る中で、包帯越しの指先が微かに震える。
リビングに戻り、再び砂時計の前に座る。何度目かの視線がガラスの中を流れる砂に釘付けになる。何も変わらない。変わらないのは分かっているが、それでも確認せずにはいられない。
砂時計をひっくり返してみようか。そんな衝動が頭をよぎった。しかし、ひっくり返したところで何が変わるのだろう。時間は進むしかない。それを逆戻りさせることなどできないのだと、自分に言い聞かせる。
「次はいつ使うつもり?」
不意に声が聞こえた気がして、周囲を見回す。しかし、もちろん誰もいない。声は確かに聞こえたが、それがどこから来たのか分からない。私はただ砂時計を見つめることしかできない。
包帯が巻かれた指で砂時計をそっと触れる。冷たい感触が指先に伝わる。それでも、その冷たさは、どこか懐かしいような気がした。いつからこの砂時計を持っていたのか思い出せない。ただ、ずっとそこにあったような気がしてならなかった。
砂がすべて落ちきるのを待つことにする。流れ落ちる最後の一粒まで見届けるのだ。見届けても何の意味もない。でもそれでいい。
包帯を巻いた指先をじっと見つめながら、私は静かに息を吐いた。部屋の中に流れるのは、砂時計の中の砂の音と、私の微かな呼吸音だけだった。