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水路に眠る古墳の秘密 [ショートショート]

休日の朝、私は近所の小さな川沿いを散歩していた。コンクリートで整備された水路は、町の生活排水を運びながらも、どこか自然の香りを残している。その日は特に蒸し暑く、陽射しが強いせいか、水面がきらきらと反射して目に痛かった。

少し進むと、周囲の景色が開けた。そこには昔から気になっていた丘があった。地元では「古墳」と呼ばれているが、正体はよくわかっていない。子供のころ、友達と冒険のような気分でこの丘を登った記憶がある。今も雑草が生い茂り、誰も近寄らないまま放置されている。

なぜだかその日は丘の近くまで歩いてみたい気分になった。水路から枝分かれした小さな流れが、丘のふもとに続いているのが見える。近づくと、水が冷たく澄んでいて、周囲とは異なる静けさが漂っていた。草むらをかき分けながら進むと、ふと奇妙なものが目に入った。

水路の浅瀬に横たわっているのは、明らかに人工物だった。それは古びた石碑のように見えたが、苔に覆われ、文字は読み取れない。さらに近づこうとすると、足元で水が激しく波立ち、一瞬だけ大きな魚影が動いた。それは魚ではなかった。背びれが鋭く、まるで鮫のように見えた。

鮫? こんな内陸の水路に?

私は一歩後ずさりした。だが、影は再び現れる気配はない。丘のふもとに目を戻すと、石碑らしきものの隙間から水が湧き出していることに気づいた。まるで丘の中から何かが吐き出されているようだった。

「やっぱり古墳に何か秘密があるのかも」

私は自分でも驚くほど冷静だった。近所の古い人たちが、この辺りの水路が昔は神聖な場所だったと話していたことを思い出した。石碑や水路の配置には何か意図があったのかもしれない。

その夜、家に帰ってからも、あの鮫のような魚影が頭から離れなかった。丘に眠る古墳と水路の奇妙な関係。私の中で何かが呼び覚まされるような感覚があった。

翌朝、私は再びあの水路へと足を向けた。

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