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カレーうどんの攻防 [ショートショート]

昼下がり、私は玄関の方から妙な音を聞いた。音の主は庭にいるはずの秋田犬、名前はタマだ。普段はおとなしいタマだが、ここ数日、気まぐれに玄関の戸を叩くようになった。今日もまた戸の向こうから低いうなり声が聞こえ、私は玄関へと足を向けた。

玄関の扉を開けると、タマはすぐに私の手元をじっと見つめた。実は私が手にしているのは、湯気を上げるカレーうどん。昼食の途中だったが、あまりにもタマの主張が強いので、仕方なく席を立ったのだ。

「タマ、これはあげられないよ」と私は言った。しかし、タマは諦める気配を見せなかった。つぶらな瞳をこちらに向け、鼻をひくひくさせながら、一歩ずつ距離を詰めてくる。カレーの香りが彼の食欲を刺激しているのか、彼の目には熱意とも取れる光があった。

タマが更に一歩近づく。私は思わずカレーうどんを片手に引き、背を反らした。「ダメだってば」ともう一度言うと、タマはしばらくその場で鼻をならした後、不満そうに尻尾をふる。だが、彼があきらめるとは思えない。気を抜けば、カレーうどんを一気に狙ってくるかもしれない。

私は慎重に玄関先から離れ、台所に戻った。だが、タマも私を追いかけてきて、足元にぴたりと座り込む。私はあまりの執念に少し呆れつつも、そのままカレーうどんを一口運んだ。しかし、またしても足元から鋭い視線が感じられ、思わず手が止まる。

食べ終わるまでこの攻防が続くのだろうかと思ったが、ふと閃いて、乾燥した犬用のビスケットを探し出し、タマに差し出した。すると、タマはわずかに迷うような素振りを見せながらも、そのビスケットを大人しく受け取った。

タマがカリカリとビスケットをかじる音を聞きながら、私はようやくカレーうどんに集中できた。しかし、ふと顔を上げると、タマの視線はまだこちらに向けられている。

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