クレーンゲームの天才 [ショートショート]
仕事帰り、ふらりと立ち寄ったゲームセンターで、私は無意識にクレーンゲームの前に立っていた。透明なガラス越しにぬいぐるみが整然と並び、どれもやや大きめで、愛らしい。今日もまた失敗するだろう、と思いつつ、財布から硬貨を取り出した。
「挑戦してみようかな」小声でつぶやき、百円玉を投入した。クレーンを動かし、慎重に位置を調整する。この瞬間、なぜか私はひどく集中していた。クレーンが降りる。爪がぬいぐるみをしっかり掴む。そして、見事に景品口へ運ばれた。
「やった......」静かに喜び、ふと周囲を見回す。近くの学生らしき男性が驚いた顔でこちらを見ていた。彼は、軽く拍手しながら「クレーンゲームの天才じゃないですか」と言った。彼の言葉を真に受けるほど自信はなかったが、少し誇らしい気持ちになった。
その後も何度か挑戦したが、なぜか全て成功した。こんなことは初めてだ。財布の中の硬貨が尽きると、景品を抱えながら出口へ向かった。ドアの前で、急に体が重く感じた。連続の成功に興奮していたのか、今になって疲労が襲ってきた。
家に帰ると、買い物袋から取り出したぬいぐるみをベッドに並べた。小さな部屋の中で、彼らは無言の存在感を放っている。私はそのままベッドに横になり、天井を見上げた。「これって、大人買いみたいなものだよね……」ふと笑ってしまう。
成功の喜びと疲労が混じり合い、いつしか眠りについた。夢の中でも、クレーンゲームの爪は景品を確実に掴み続けていた。
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