十年後の空色 [ショートショート]
十年後の今日、私はこの場所に立っている。かつての町役場跡地だ。震災で崩れた役場のビルは再建されず、今は瓦礫が整地され、広場となっている。周囲には低い木々が植えられ、季節ごとに異なる花が咲くようになっている。空を見上げると、今日も変わらず空色が広がっている。その空の下、静かに立つ。
「まるで何事もなかったみたいね」と独り言を漏らす。あの日、町が揺れ、役場も一緒に崩れ落ちた。多くの人が犠牲になり、その後の再建も難航した。大きな企業も多く撤退し、今は役場の機能も隣町に移された。
けれど、あのとき私たちはこの場所を守ろうと決めた。私を含めた数人がこの町に残り、町の存亡をかけて活動を続けた。生まれ育った場所を見捨てることはできなかった。住民たちが一丸となって土地を清め、花を植え、できる限りの整備を行ってきた。町に戻ってくる人は少なかったが、集まる度に思い出話をして、少しでもかつての活気を取り戻そうと努めた。
「いつかまた、賑やかになるかしら」
広場には、震災の記念碑が立っている。その碑文には、多くの人の名前が刻まれている。手で触れるとひんやりとした石の感触が指先に伝わってくる。この石碑も空色の空の下で、黙して佇んでいる。かつての仲間の名前を一つ一つなぞりながら、私は静かに祈りを捧げる。私たちは存亡をかけてこの場所を守ってきた。たとえそれが形に残らずとも、記憶にはしっかりと残っている。
空を見上げると、鳥がゆっくりと飛び交っている。この空も十年前と変わらないように見えるが、実際には多くの嵐や大雪が通り過ぎた。けれども、その変わらない「空色」が私たちにとっての希望になっている。