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雨の日のラーメン店 [ショートショート]

小雨が降る駅前で、私は傘を差して立ち尽くしていた。仕事帰りの疲労が体を重くする。雨の音が騒がしい街を少しだけ静めていた。

ふと、視線の先に小さなラーメン店を見つけた。駅から徒歩1分、赤い暖簾が雨に濡れていた。何度も前を通り過ぎていたはずだが、入ったことはなかった。腹は空いている。足は自然と店の方へ向かった。

店内は狭く、カウンターだけの造りだ。客は私を含めて3人。店主は白髪混じりの男性で、黙々とラーメンを作っている。私はカウンターの端に座り、置かれたメニューを開く。定番の醤油ラーメンを注文した。

「少し時間がかかるけど、大丈夫ですか?」
店主がそう声をかける。私は頷き、バッグからスマホを取り出した。けれど、特に見るものもなく、画面を閉じる。代わりに店内を観察する。

壁には昭和風のポスターが数枚貼られている。棚には年代物のラジオが置かれ、静かに音楽が流れていた。どこか懐かしさを感じる空間だった。

湯気とともにラーメンが運ばれてくる。黄金色のスープに薄切りチャーシュー、そしてネギが浮かぶ。
「お待たせしました」
と店主が置いた一杯は、どこか真面目な佇まいをしている。

レンゲでスープをひと口すする。濃厚でいて、しつこさのない味わいが広がる。
「美味しい」と思わず声が出た。麺は程よくコシがあり、スープとの相性が絶妙だ。私は夢中で食べ進めた。

「雨の日は、よく来る人が多いんですよ」
と、ふいに店主が話しかけてきた。
「傘さして歩いてると、暖簾が目に入りやすいのかもね。」

私は頷きながら答える。
「たしかに、そうかもしれません。普段なら気づかなかったかも。」

店を出ると、雨は少しだけ弱まっていた。温かいラーメンの余韻が体に残る。駅までの短い道のりを歩きながら、またここに来ようと思った。

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