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収穫祭のハーフタイム [ショートショート]

秋の収穫祭でアメフトの試合が始まる。観客席には大勢の人々が詰めかけており、私もその中にいた。どこかよそよそしいこの地元のイベントには、私も幼い頃から毎年顔を出している。運動音痴の私は試合そのものに関心があるわけではないが、雰囲気を楽しむため、足を運ぶのだ。


今年はなぜかハーフタイムの司会を頼まれてしまい、気乗りしないまま引き受けることになった。地元の役員が当日になって「急に一人足りないんだ」と駆け込んできたからである。断る理由もなく、私はその場で快諾したが、当日までどう振る舞うか悩んでいた。


試合が始まると、観客席は歓声に包まれた。熱狂的なファンが多く、私もその空気に少しだけ気持ちが高ぶる。私はスポーツのルールに疎く、どちらが勝っているのかも分からなかったが、それでも隣の観客たちが叫ぶ度、手を叩き一緒に応援するふりをしていた。


やがてハーフタイムがやってきた。司会をするのは初めてで、手には緊張で少し汗がにじむ。私がマイクを握り、ゆっくりと挨拶をすると、思いの外、観客は反応してくれる。話す内容は前日に教えてもらった簡単な案内と、農家のブース紹介だ。言葉を噛まないよう注意しつつ、一つ一つ丁寧に説明する。観客の反応が和やかで、少しずつ緊張がほぐれていくのを感じた。


「それでは、今日の収穫祭の目玉!新鮮な野菜の抽選会を始めます!」とアナウンスすると、子供たちが声を上げて喜び、大人たちは笑顔を浮かべた。


再びアメフトの試合が始まる。役目を終えた私は静かに観客席に戻り、何気なくフィールドを眺めた。汗まみれで走る選手たちの姿が、収穫されたばかりの土つきの野菜と重なって見える。

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